闇の金~香港ルートを追え

 さて皆さんが仮にお金持ちだとして、「日本だけの投資では物足りない。外国にも投資したい」と思われた場合。どこの国に投資したいでしょうか?まず外国への投資のメリットの1つとして、「外国の方が成長率が高い」ことが挙げられます。「国の成長」を表す指標として、用いられるのに「実質GDP」というのがあります。ちなみに雑誌『週刊エコノミスト』2013年4月23日号の情報から引用すれば、2012年10~12月の四半期における主な国の実質GDPは以下の通りです。「日本 0.2%」「アメリカ 0.4%」「イギリス マイナス1.2%」「ドイツ マイナス2.3%」「韓国 1.1%」「中国 7.9%」「インド 4.5%」「ブラジル 2.2%」「ロシア 2.1%」となっています。大変ざっくり言えば、例えば成長率3%の国に投資すれば、だいたいどんな事業でも3%前後の利益は挙げられるとイメージしましょう(まあ、実際はそんな単純ではないのですが)。だとしたら、0.2%しか成長のない日本よりは、もっと成長率の高い外国に投資した方が、儲かることになります。「日本ではもう成長できる産業がない。諸外国に打って出よう」という話が出てくるのには、こういう背景があるからです。それでは、皆さんは外国の中でも、どの国に投資するでしょうか(この場合、単純に「お金だけを投資する」ことに限定します)。やはり成長率がダントツで高い、中国を選びたいはずです。ところが、中国には、我々は基本的には投資できません(今回、細かい例外の話は飛ばします)。それは、なぜか。中国政府が「人民元安」を維持したいからです。中国は輸出で儲けたい為に、わざと「人民元安」に為替を設定しているのです。そこで、今回はまず「為替の仕組み」「人民元安操作の手口」「中国政府が、外国投資家を嫌う理由」を説明していきます。また最後に、おまけとして、それでも「中国への“抜け道”投資の手口」を話して終わりとさせて頂きます。

*今回は以下の資料を参考にさせて、書かせて頂きました。

・『中国経済あやうい本質』(集英社新書 浜のり子著)

・『人民元・ドル・円』(岩波新書 田村秀男著)

・雑誌『週刊エコノミスト』2013年4月23日号

 まず為替の話からしましょう。どうやったら、ある通貨が「安く」もしくは「高く」なったりするのかについてです。今回は中国のお話なので、中国の通貨である人民元と、ドルについての関係で説明します。また、ここで人民元を「肉まん」に変えて、ドルを「ドーナツ」に変えて説明します。その方が、イメージしやすいと思います。まず為替市場に「肉まん 4個」と「ドーナツ4個」があったとします。「為替市場にある」というのは、「誰の懐にも入っていない」ということだと考えて下さい。つまり「肉まん 4個」と「ドーナツ4個」が、何か市場にポツンと存在しているようなことです。そんな中で、中国人はもちろん肉まんを食べて、生活します。よって、中国人はドーナツより肉まんを好みます。中国に住んでいる人が、ドルではなく人民元を好むと同じです。逆にアメリカ人はもちろんドーナツを食べて、生活します。よって、アメリカ人は肉まんよりドーナツを好みます。アメリカに住んでいる人が、人民元ではなくドルを好むのと同じです。

 さてそんな状況で、中国人が工場でおもちゃを作り、アメリカに輸出しました。アメリカの人は「中国ノ人、作ッテクレテアリガトウネ」と、懐からドーナツ1個を出して、中国人に渡します。この際、気をつけたいのはドーナツの出所が、おもちゃを買ったアメリカ人の懐からということです。決して、為替市場にある「ドーナツ4個」からは、取ってはいないということです。つまりこの時点では、為替市場には「肉まん 4個」と「ドーナツ4個」のままです。ところがドーナツ1個を渡された中国人は、当然ドーナツを食べません。よって中国人は「肉まんに交換してほしい」「そんな便利な場所ないですか?」となります。そう、その便利な場所が、為替市場なのです。ドーナツ1個を、為替市場(「肉まん 4個」と「ドーナツ4個」が置かれています)に持って行き、肉まん1個と交換してもらいます。よって為替市場では、ドーナツ1個が増えて、肉まん1個が減ったことになります。この時点で、為替市場の品揃えは、「肉まん 3個」と「ドーナツ 5個」となります。「少ない物には価値がある」という市場原則をあてはめれば、「肉まんは4個から3個になったので、価値が増しました」と言えます。逆に「ドーナツは4個から5個になったので、価値が減りました」と言えます。ここで、肉まんを人民元に、ドーナツをドルに戻せば。ある通貨が「安く」もしくは「高く」なったりするのかについて、少しお分かり頂けると思います。長々と説明してきたこの取引を、変動相場制としましょう。ざっくり言えば、「政府が関与しない」ということです。通常の通貨取引である変動相場制においては、輸出すればするほど、その国は「通貨高」になってしまう運命なのです。

 しかしご存じのように、輸出大国・中国の人民元は「安く」設定されていて、いつになっても輸出で稼げる仕組みです。つまり上記の変動相場制にしていないのです。では、中国の為替はどんな仕組みか、先ほどの肉まんとドーナツの例を再度使って説明します。話は、中国人が作ったおもちゃの代金としてアメリカ人からドーナツをもらって、為替市場で肉まんと交換し終わった時からです。中国の人が、為替市場で「私が持っているドーナツ1個を、肉まんに換えて下さい」と言います。それで為替市場の品揃えは、「肉まん 3個」と「ドーナツ 5個」となっていますね。そこにすかさず中国の政府が為替市場にやってきて、「俺の肉まん2個と、ドーナツ2個を換えてくれ」とするのです。そうなれば、一転為替市場の品揃えは、「肉まん 5個」と「ドーナツ 3個」となってしまいました。この場合、「肉まんの価値が減って」「ドーナツの価値が増えた」ということになります。「肉まん 安」つまり「人民元安」になる訳です。これが、いくら中国が輸出しても、「人民元高」にならない仕組みです。

 もちろんアメリカをはじめとした諸外国は、「貧しい時は許せるけど、そこそこの国になったんだから。ちゃんとした取引導入しろ」と迫っているのです。ニュースでは「人民元の切り上げを望む」という風に紹介されています。当然中国政府は、「輸出こそが成長の原動力」だと思っています。素直にアメリカのことを聞いて、「人民元高」になってしまえば、輸出競争力が落ちます。中国の生命線は「何としてでも、人民元安」ということなのです。

 もちろん輸出で稼いでドルから人民元を変えること自体は、大いに結構なのです。例えば中国で縫製工場を作り、中国人を雇い、輸出に貢献してくれる日本企業やアメリカ企業は、とっても有難い存在です。ユニクロやGAPなどは、中国政府にとってはそういう存在で、ここでユニクロやGAPを「腰を据える外国グループ」としましょう。中国政府は、「腰を据える外国グループは、歓迎」なのです。しかし輸出以外でのことで「人民元を買う人達」、つまり海外投資家の人達は、中国政府にとって厄介な存在です。日本でいえば、今の「西武グループサーベラス(アメリカの投資集団)」の人達がそれにあたりますかね。サーベラスの人達は、西武グルーブの株を沢山握っているので、今強い立場にいます。それはサーベラスが、ちゃんと西武グループの株を買ったからです。日本円で。よって中国で、もしサーベラスのような存在を許せば、どんどん人民元が買われて、人民元は高くなっていきます。もちろんそれをされると、せっかく中国政府が為替市場でやっている「人民元安」操作の効果が薄まってしまいます。中国政府にとっては、輸出大国として存在し続ける源の「人民元安」を維持する為には、「海外投資家の人達のような、腰を据えられない外国グループは、お断り」ということです。

*逆に、中国のお金持ちが今、アフリカの資源や日本の水資源を買い漁っているというニュースを聞くことが多いです。これは、中国政府にとってはアリな訳です。なぜなら、それらの行為が「人民元を売って、外国通貨を買う」ことだからです。つまりそれは「人民元安」につながります。

 以上が、我々が中国へ基本的に投資できない理由です。しかし、それでも「腰を据えられない外国グループ」は、中国を見て「あー。投資したい」という思いが非常に強い訳です。あきらめきれない人達もいるのです。そこで、巷間言われている、「中国への“抜け道”投資」があるのですが。それを説明して、本日は終わりとします。

 もちろん中国政府にとって、それは不法行為にあたることですので。例として出すのは、悪い組織にします。まず日本の悪い組織の親分(仮にAさんとします)が金主とします。「う~ん。最近は、日本の不景気と連動して。ワシが出資する、闇カジノ、闇金融等の利益率も低くなっとる。もっと高い利益率を求めて、今元気な中国の闇事業に投資してみるか」とAさんは考えました。もちろん「中国への“抜け道”投資」に詳しい、ブローカーのBさんに任せる形になります。「とりあえず1億円、中国の闇事業に投資させてもらうよ」とAさん。Bさんは「中国の悪い組織は、事業チャンスは沢山あるのに、事業資金がないと困ってますので。喜びますよ」と言います。それでブローカー・Bさんは、金主のAさんからもらった1億円を、まず香港に何らかの形で投資します。「日本→中国の投資はダメ」ですが、「日本→香港の投資はOK」なので何の問題もありません。そこで1億円を香港ドルに換えます。香港ドルに金額を直すと話がややこしくなるので、「1億円分のお金」という表記にしますね。

 そしてその「1億円分のお金」を、香港のある会社(ブローカーBさんの息のかかった会社)に投資した形にします。仮にその香港の会社は、高級衣服を販売する会社(香港高級衣服C会社)としましょう。そして次に、その香港高級衣服C会社から「1億円分のお金」を、中国の悪い組織(D集団)に動かす形になります。ですが、基本的に「香港→中国本土の投資もダメ」です。では、どうやって香港高級衣服C会社からD集団に「1億円分のお金」を渡すのでしょうか?それは、香港と中国本土の間で、正式に物とお金を動かすことが認められている「輸出/輸入」業務に紛れこませるのです。具体的にはこうです。D集団の息のかかった中国本土の衣服製造会社(中国本土衣服製造E会社)があります。中国本土衣服製造E会社が作った服(100着)を、香港高級衣服C会社が買い取る形にするのです。これは国の輸出/輸入関係で見れば、中国が香港に「輸出」した形になります。そして中国本土衣服製造E会社と香港高級衣服C会社ともに、表の帳簿には「1億円2千万円に値する、100着分の衣服」の売買とします。中国本土衣服製造E会社が「100着の衣服」を香港高級衣服C会社に渡す一方、その代価として香港高級衣服C会社が「1億円2千万円分のお金」を中国本土衣服製造E会社に払う取引です。

 ところが実際は、その「100着の衣服」の価値は「2千万円分のお金」にしかないのです。つまり実際は、香港高級衣服C会社が「余計に1億円分のお金」を中国本土衣服製造E会社に渡していることになります。言い換えると、香港高級衣服C会社が「1億円分のお金」を中国本土衣服製造E会社に実質“貸した”ことになるのです。もちろん表の帳簿には、香港高級衣服C会社と中国本土衣服製造E会社には、賃借関係は見えませんが。裏の約束として、香港高級衣服C会社と中国本土衣服製造E会社には、賃借関係があることになるのです。この形で「1億円分のお金」を得た中国本土衣服製造E会社は、当然親玉のD集団に何らかの形でそのお金を渡します。その「1億円分のお金」を元手に、D集団は中国本土で、闇事業を展開するのです。当然成長が著しい中国です、闇事業も儲かります。

 それで翌年、D集団は借りていた「1億円分のお金」を、利子をつけた「1億1千万分のお金」にして返済することにしました。その際は、逆のルートを辿るのでしょう。今度は、香港が中国に「輸出」した形をとって、「1億1千万円分のお金」を動かします。香港高級衣服C会社がサイドビジネスでミシン販売も行っているとします。そこで、香港高級衣服C会社のミシン1万台を、中国本土衣服製造E会社が「1億3千万円分のお金」で買うのです。もちろんその「ミシン1万台」の価値は「2千万円分のお金」しかありません。これで、香港高級衣服C会社に、「1億1千万円分のお金」が戻って来ます。そこから後は、ブローカー・Bさんが香港から1億1千万円を日本の金主Aさんに戻せば終わりです。金主・Aさんは「ほっ。ほっ。1億円が、1億1千万になって戻ってきよったわ。中国はやはりビジネスチャンスがあるのう」と喜びます。

 ざっと、大変大雑把な説明をしました。もちろん以上のことは違法行為で、実際の闇取引はもっと複雑です。