タルタルソースが覇権を握る日は近いのか

 先日、私は鶏の竜田揚げを食べる機会がありました。お店で注文したのは鶏の竜田揚げがメインの定食だったのですが、別のおかずがメインの定食を食べていた同席していた人から「そちらの定食美味しかったですか?」と聞かれました。仕事関係の人達と来ていた昼食の場ということもあり、「不味いです」と答えることは常識的に有り得ないことです。「美味しかったですよ」と当然、私は答えました。儀礼的な側面で出した答えでもあったのですが、実際「鶏の竜田揚げ」は美味しかったです。けれども、「美味しかったです」と答えた途端、疑問が生まれました。

 鶏の竜田揚げとは、鶏肉に下味をつけて片栗粉で揚げた料理です。小麦粉で揚げる唐揚げと異なり、揚げた衣が硬めで、それが良い食感となるのが特長です。今回、私が食べた鶏の竜田揚げには、その上に大量のタルタルソースが掛かっていました。ご存じ、タルタルソースは濃厚な味です。つまり私が食べた「鶏の竜田揚げ」とは、主に2つの要素から成り立っていました。1つは「鶏の竜田揚げそのもの」、そしてもう1つが「タルタルソース」です。私の中で生まれた疑問とは、「鶏の竜田揚げ」の美味しさの源泉は、一体どちらなのかということです。もちろん、一方だけが美味しさの原因を全て供給しているのではなく、2つの要素が絡まって、美味しさを作り出しています。しかし供給力の度合いは、異なっているはずです。2つの要素とも、同程度の供給力ではありません。どちらか一方がメインで、もう一方がサブという関係があります。

 「鶏の竜田揚げそのもの」と「タルタルソース」という2つの要素を見れば、一般的には「鶏の竜田揚げそのもの」がメインで、「タルタルソース」がサブとされます。「タルタルソース」は、おかずを食べやすくする、引き立て役の調味料の扱いに過ぎないからです。けれども、私は今回の「鶏の竜田揚げ」を食べて「美味しいです」と答えた裏には、タルタルソースという要素が力強く作用していました。つまり、あくまでも今回私が食べた「鶏の竜田揚げ」とは、「タルタルソース」がメインで、「鶏の竜田揚げそのもの」はサブだったのです。確かに「鶏の竜田揚げそのもの」も不味くはなかったです。鶏肉も柔らかかったです。しかしそれをタルタルソースが超えていました。大袈裟に言えば、「タルタルソースだけを食べていた」と言えます。そしてそれで十分美味しく感じたのです。おかずを凌駕する調味料、タルタルソース。恐るべき存在です。

 タルタルソースとは、一般的にはマヨネーズ、ゆで卵、玉ねぎなどの野菜、塩やコショウ等を材料にして作られた調味料です。主には、揚げ物に付けて食べるのに、利用されています。筆頭は多くの人に食べられている海老フライです。海老フライに付けて食べる物といえばタルタルソースとなっています。それ以外のソースやトマトケチャップ、醤油やマスタードなどで海老フライを食べるのは、日本ではもはや考えられない状況です。海老フライに続くのが、白身魚フライやカキフライです。持ち帰り弁当屋のノリ弁当の主要なおかずといえば、ノリではなく、白身魚フライとなっています。そこで私たちは白身魚フライをタルタルソースで食べています。といっても、今でも持ち帰り弁当屋の中にはノリ弁当にはソース小袋しか付いてない場合もあり、白身魚フライをソース味で食べることもあります。あと白身魚フライとタルタルソースの組み合わせと言えば、ハンバーガーショップのマクドナルドのフィレオフィッシュを挙げない訳にいきません。皆さんの周りにも、何人かはこのフィレオフィッシュの信奉者がいるはずです。カキフライもタルタルソースで食べるのが主要な食べ方の1つとなっています。

 このように魚介類の揚げ物にタルタルソースはよく使われています。これは魚介類の持つ苦さというか、生臭さを緩和するのに、濃厚な味のタルタルソースが適していたといえます。また、その濃厚な味のタルタルソースは、他の食材でも使われています。最初に挙げた、鶏の竜田揚げや唐揚げ、チキン南蛮といった、鶏肉の揚げ物と一緒にタルタルソースは食べられることが一般的です。豚肉や牛肉に比べて、鶏肉のそもそもの肉の味は淡白です。肉の部位にもよりますが、牛肉はただ焼いただけでも、塩で食べることができます。しかし鶏肉の場合、脂の多いモモ肉を焼いた場合でも、塩で食べられますが、もっと濃厚な調味料で食べたくなるものです。淡白な味の鶏肉と濃厚な味のタルタルソースは親和性が高いのです。

 またタルタルソースは、他のおかずとも合います。例えば、ハンバーグです。ハンバーグに掛ける調味料といえば、デミグラスソースやトマトケチャップ、または大根おろしとポン酢などが、一般的です。しかしハンバーグとタルタルソースという組み合わせもあり得ます。実際、関東・中部・信越・関西地域でお店を展開するハンバーガーショップ、ファーストキッチンのベーコンエッグバーガーは、ハンバーグとタルタルソースの組み合わせで、人気を得ています。味がしっかりしているハンバーグでさえも、共存を可能にしているのがタルタルソースなのです。

 次にタルタルソースのその強さの源泉を探っていきましょう。まずは、先程から述べていますが、その濃厚さです。これは、主原料のマヨネーズによる所が大きいです。マヨネーズも濃厚な味で、それだけ食べても、食べ応えがあります(しかし食べ過ぎると栄養過多になったりしますので。十分ご注意下さい)。特に苦味を持つ野菜を食べる時には、マヨネーズの濃厚さは役立ちます。苦さを濃厚な味で相殺してくれるからです。またアジフライなどにもマヨネーズを付けて食べると、アジの持っている苦味を緩和してくれます。このマヨネーズ由来の濃厚さが、タルタルソースの強さの1つです。

 ただタルタルソースは、マヨネーズではありません。マヨネーズの進化した形の調味料なのです。濃厚度ではマヨネーズの方が、タルタルソースより優っています。しかしそれよりも2つを区別しているのは、「味」の違いです。マヨネーズの「味」は単一的であり、一方タルタルソースの「味」は複雑的です。つまりマヨネーズは、形容しやすい味で、調味料そのものゆえに舌に重くのしかかります。逆にタルタルソースは、形容し難く、複雑な味で、舌に優しいです。タルタルソースを作る際に、マヨネーズ以外に加える物(ゆで卵、玉ねぎなどの野菜、塩やコショウ等)が、タルタルソースの「味」の複雑さを生み出しています。タルタルソースはただ濃厚なだけでなく、どこかさっぱりしているのは、味が複雑だからです。

 またタルタルソースの形状も強みの1つです。タルタルソースは液体でなく、固体でもなく、その間のドロドロした形状をしています。この形状の特長は、確実におかずに味が付くということです。例えば、白身魚フライにタルタルソースを掛けたら、タルタルソースは確実に白身魚フライにくっついて、口に入れるまでタルタルソースは白身魚フライを離しません。食べる側は、確実に「タルタルソース味の付いた」白身魚を食べることができます。一方液体状態の調味料であれば、液体であるのでおかずを流れていき、おかずに調味料の味が確実に定着する保証はありません。白身魚フライに醤油をかけても、掛ける量が少なかったりしたら、十分な醤油味が付かずに白身魚フライを口に運ぶことになります。タルタルソースの形状が、おかずに対してタルタルソース味の定着を担保しているのです。