手形とは何か

 電子決済の登場によって、手形の存在感が薄まっています。「手形」という言葉を聞く機会も減り、「あの約束は、空手形だったのか」(約束が果たされなかった)という文句などを聞く程度です。長年の歴史がある手形は現在も使われていますが、今後電子決済の技術が一層高まれば、消えていくでしょう。ゴミを掃くのに用いるホウキは、現在掃除機に役を取って代わられています。掃除機の方が、電気の力で、短時間に沢山のゴミを集められるからです。けれども、ホウキと掃除機の機能は共に「ゴミを集めること」です。手形と電子決済も、便利さは異なりますが、機能は同じ「企業間の決済」です。手形自体は今後消えゆく運命かもしれませんが、手形が持っていた「企業間の決済」という機能は消えません。昔のものは不便ですが、その代り仕組みは単純です。分かりやすい仕組みの理解が、何かを学ぶ上で重要です。「企業間の決済」という機能を学ぶのに、手形は格好の題材と言えます。

*今回は記事を作成する際に、『裏経済パクリの手口99』(日名子暁著、かんき出版)の情報を参照させて頂きました。

 一般的に「手形」と表現されていますが、多くの場合、約束手形を指しています。言葉通り「A社はB社に対して、100万円を、20XX年5月5日に支払います」という約束を記した書類のことです。制度として保証されているので、公的な書類です。A社がマンションを建設する会社、B社が鉄筋を作る会社だとします。A社はマンションを作る際、鉄筋が必要なので、B社から鉄筋を購入します。B社からA社に対して鉄筋という商品が流れる一方で、反対にA社からB社に対して購入代金が流れます。一般的な商取引の流れです。しかしお金を支払う側のA社が、鉄筋購入代100万円を、すぐに支払えない場合があります。そこで支払う日を延ばしてもらいます。数か月後なら、自社の受注金額が口座に入っているので、 A社は鉄筋購入代100万円をB社に支払うことができます。その事情をB社が理解した上でなされる企業決済が、「A社はB社に対して、100万円を、20XX年5月5日に支払います」という内容の約束手形によるものです。

 手形を出す側(A社)は「振出人」と表現され、手形をもらう側(B社)は「受取人」と表現されます。手形を出す(振り出す)側は「後日お金を支払う義務」を持ち、手形を受け取る側は「後日お金をもらう権利」を持ちます。ところが手形の受取人であるB社は、手形に記載されている期日までに、待てない場合もあります。急遽お金が要ることも発生するでしょう。その際、B社は手元にある手形を金融機関に持っていき、現金と交換してもらえます。つまり、手形の受取人であるB社は「後日お金をもらう権利」を金融機関に売るのです。その代価が現金です。その際、手形に記載されている金額ではなく、記載金額から「割り引かれた」金額が現金としてB社に渡されます。例えば、記載金額100万円の手形の場合、金融機関が2万円を割り引くと、B社は98万円の現金を得ます。B社としては2万円の損ですが、期日より前に、一定の現金を手にすることができます。スピードが大事な商売にとっては、早い時期の投資が物を言うことがあります。換金化は、「額」よりも「時」が重視される場合があります。一方、手形を買う金融機関にとっては、「後日お金をもらう権利」を手にでき、割り引いた金額を「手数料」として得ることができます。金融機関は期日になれば、その手形を振り出したA社から、記載金額100万円を受け取ることができます(この取引は、実際は複雑なのですが。簡略化しました)。

 また手形は、金融機関を介さない形で、民間業者間における支払いの役割を果たします。例えばY社はX社から「X社の手形」を受け取りました。Y社は「X社の手形」を、期日まで待ち現金化する、金融機関に行き割り引いてもらい現金化する以外に、支払の手段としても使えます。Y社は仕入先のZ社に対して、仕入れ代金を現金ではなく、「X社の手形」で支払うことができます。もちろんZ社は、受け取った「X社の手形」を現金化することができます。所有者が移転しても価値が一定に機能するのが手形の魅力の1つです。現金に似ています。譲渡の際、手形を渡す側は「裏書」という行為をします。文字通り、渡す手形の裏面にサインをすることです。よくマスコミで聞く「手形を裏書する」というのは、「手形を渡す」ということです。

 どんな会社でも手形を振り出せる訳ではありません。手形を振り出したい会社は、金融機関に当座預金口座を開設しなければなりません。普通預金や定期預金とは異なり、当座預金とは企業間決済の為に使用されます。金融機関は信用を落としたくない為、当座預金口座を開設させる際には、その会社に対して慎重な審査を行います。その審査を通る必要があります。金融機関にとって懸念すべきことが、「不渡り」という事態です。手形の利点の1つは「支払いの延長化」でした。これは「手形を振り出した会社の当座預金口座に、期日までに支払い金額があること」が前提となっている仕組みです。そこから、最終的に手形を持っている人に対して、引き落としされます。しかし手形を振り出した会社の業績が悪く、期日までに当座預金口座に支払金額を置けなかったら、最終的に手形を持っている人は期待していたお金をもらえません。例えば、「100万円の手形」を振り出したのに、当座預金口座には「30万円の残高」しかなかった場合です。つまり手形を振り出した会社は、約束手形の内容を破った事になります。この事態を手形の「不渡り」と言います。この未払いを2回行うと、銀行からは相当厳しい処分が、手形を振り出した会社に下されます。会社の信用を多大に損なう行為が、この「不渡り」です。金融機関にとっても「不渡り」は迷惑な話なので、審査を慎重にします。