ノルウェー漁業を見習いたい

 漁業という産業が利潤を得る仕組みは単純です。水産資源をそのまま捕獲し、市場に流せば済みます。現在では希少な狩猟採集型のビジネスモデルです。工業資源の石油・鉄鉱石の場合、資源獲得に至るまで、調査・開発の金・時間が莫大に掛かります。農業資源の土・水の場合、資源保全の必要があります。一方、漁業の水産資源はこれまで、人間側がアクセスしやすく、加えて保全する必要がない、人間側にとって有難い資源でした。背景には、水産資源の繁殖力の高さに比べて、漁獲技術が劣っていたことがあります。木製の手漕ぎ船で海に行き、ベテラン漁師の経験に基づき魚群に接近し、天然繊維の漁網や竿で漁獲している段階では、水産資源の減少に至りませんでした。

*今回は記事を作成するにあたり、毎日新聞2014年10月21日朝刊「地球ING 進行形の現場から 第9回[ノルウェー管理魚業]」、農林水産省サイトの情報を参照させて頂きました。

 20世紀に入ると科学の発展が漁業産業にも及んできます。漁船は電力で動き大型化・高速化します。魚群探知機が発明され、正確に魚群を発見できるようになります。漁網は化学繊維から作られ、頑丈になりました。高度化した漁業は大量の魚の捕獲を可能にしました。漁獲技術力が水産資源の繁殖力を超える事態になったのです。並行して20世紀には、大衆消費文化と人口増大の動きが強まりました。需要の増大に応じられる漁獲技術を持った漁業産業は自ずと乱獲に突き進みます。その結果、20世紀後半から現在まで、水産資源の減少・枯渇という事態に直面してしまいました。漁業産業側にとっても、漁獲量の減少を意味し、収入減に陥る事態です。

 日本の漁業総生産額・総生産量が20世紀からの日本漁業の変化を物語っています。約3千億円(1960年)→約9千億円(1970年)→約2兆7千億円(1980年)→約2兆7千億円(1990年)→約1兆8千億円(2000年)→約1兆4千億円(2012年)と日本の漁業総生産額は推移しています(農林水産省のサイトより参照)。また総生産量は、約1千1百万トン(1980年)→約1千1百万トン(1990年)→約6百万トン(2000年)→約4百万トン(2012年)と推移しています(農林水産省のサイトより参照)。消費社会の進展と比例するように、1990年まで漁業規模が拡大していきます。しかし1990年代前半から現在まで漁業規模は縮小していきました。

 漁業規模が縮小している現象は、水産資源の減少・枯渇の要因だけで求めることはできません。世界各国が200海里体制を敷いたことによる、日本遠洋漁業における漁場縮小も要因の1つとして挙げられます。沿岸から200海里(約370km)の海域に存在する資源をその沿岸国が保有するという決まりに従うのが200海里体制です。200海里体制を各国が導入する以前は、日本は世界中の海に行き、魚を自由に獲ることができました。日本漁業の前途は明るくありません。

 この現象は日本以外の国々にも見られます。しかし北欧のノルウェーは1960年~1980年代に乱獲の影響で水産資源減少に陥った後、画期的な仕組みを導入し、現在は世界の中で注目を浴びる漁業大国になっています。まず水産資源減少を防ぐ為に漁獲量制限を行いました。水産資源の正常な繁殖力を阻害しない程度で漁獲すれば、水産資源は減少しません。漁獲量制限することで、漁業は持続可能な産業となります。ノルウェーの場合、漁船毎に漁獲量を割り当てました。漁業者側からすれば、漁獲する量に上限を設けられた為、「沢山魚を獲って沢山売る」という儲けの仕組みから脱却する必要に迫られます。

 魚は「一匹のサイズ」の違いによって価格が変化するという商品特性を持っています。例えば、200キロを超えるマグロには数千万円の価格が付きますが、マグロの小魚には価格が付きません。マグロは大きな体になってこそ初めて、価値が付与される商品なのです。漁船毎に漁獲量を割り当てられたノルウェーの漁業者は、小魚を沢山獲るのではなく、市場価値の高い大きいサイズの魚を少し獲る方法に改めていきました。結果的に、ノルウェーの漁業者の収入は上がり、現在ノルウェーの漁業者の年収は約600~1000万円になります。ノルウェーの漁法は、狩猟採集の色合いより、「大きな実を育てる」という農業の色合いが濃くなっています。また割当漁獲枠を、他の漁業者に売買、賃借することができます。各漁業者の事情に応じた漁を行えます。

 日本も一部の魚種で漁獲量制限を実施しています。しかしノルウェーと異なり、漁船毎に漁獲量制限が課されず、漁業者全体における漁獲量制限です。「オリンピック方式」と呼ばれ、「早く魚を獲る」という動機を誘発させ、漁業者間の漁獲競争を引き起す事態になっています。どの漁業者も市場価値の高い大きなサイズの魚ではなく、市場価値の低い小魚を得ざるをえなくなっています。ノルウェーとは対照的に、日本の漁法は狩猟採集の色合いが濃いと言えます。漁獲量制限の実施は、日本の水産資源の減少・枯渇の防止に寄与しています。さらなる漁業産業の発展を考えれば、ノルウェーの漁船別漁獲割当の方法に移行することが望まれます。