通貨ルーブルの制度を変えたロシア

 11月10日ロシア中央銀行は、通貨ルーブル為替相場体制の変更を発表しました。これまでの「管理変動相場制」をやめて、来年1月から「完全変動相場制」に改めます。ウクライナ領であったクリミア地域を今年3月にロシアが併合した事で国際社会の反発が起きました。ロシアからの資金引き揚げ・投資回避が始まり、通貨ルーブルの下落が止まりませんでした。2013年は1ドル=30ルーブル代に留まっていたのが、40ルーブル代まで下落、11月7日には1ドル=48ルーブルという過去最安値を記録する事態になりました。毎日新聞11月11日の記事によれば「今年に入って対ドルで4割以上下落していた」とのことです。日本円に直せば1ドル=100円から1ドル=140円に変動する事態です。

*今回は記事を作成するにあたり、毎日新聞2014年11月11日朝刊の記事、日本経済新聞2014年11月12日朝刊の記事、JETRO(日本貿易振興機構)の情報を参照させて頂きました。

 通貨安には良い側面と、悪い側面があります。ルーブルではなく日本円に直して考えてみます。1ドル商品を日本の会社が輸出販売している場合、1ドル=100円から1ドル=120円という円安の為替相場に変動したら、日本の会社は商品1個売る度に「100円」ではなく「120円」を受け取れます。もしくは「100円」の受け取りを維持して、現地での販売価格を「1ドル」から「0.83ドル」に下げて、販売拡張を図ることもできます。通貨安は輸出産業に恩恵をもたらします。一方、通貨安は輸入産業にとって不利に働きます。1ドル商品を輸入していた所、1ドル=100円から1ドル=120円という円安の為替相場に変動したら、これまでの「100円」の支払いでは済まず「120円」の支払いを余儀なくされます。通貨安による「値上げ」は、流通各部門に波及して、消費者が買う商品価格の上昇につながります。物価上昇が起きます。景気を冷え込ます要因になります。

 2013年のロシアにおいて原油天然ガスの「燃料・エネルギー製品」が、輸出品目の約7割を占めています(日本貿易振興機構)。資源商品価格がロシア経済の行方を握っている仕組みです。ロシア経済は脆弱な側面を持っています。世界的に原油価格の下落が続いています。ロシアにとって通貨安の恩恵は、主要輸出商品・原油の価格下落によって相殺されています。一方、通貨安による物価上昇が容赦なくロシア国民に直撃しています。ロシア政府としては、ルーブルのさらなる下落は阻止したいです。ロシアの管理変動相場制とは、為替相場が「一定の価格変動幅」に収まるように、ロシア政府が日々調整することを意味します。ルーブルが下落基調の場合、例えば「1ドル=40ルーブル」に戻すことを目標に、ロシア中央銀行が「ドル売り、ルーブル買い」の為替介入を規則的に実施しています。一方、完全変動相場制を採るアメリカや日本も為替介入をしますが、不規則に実施されます。

 ロシア中央銀行ルーブル下落阻止の為、「ドル売り、ルーブル買い」の為替介入を規則的に実施し続けていました。ロシア中央銀行の動きを利用して儲けを得ていたのが投機筋です。投機筋が儲けを企む際、複数の手順を経る必要があります。考えられる1つの手法を例え話にして挙げます。まず1ドル=30ルーブル為替相場の時に、①投機筋の1つMファンドは「30ルーブル売って、1ドル買う」為替取引を実施します。30ルーブルの元手は、ロシアのA銀行から借金して調達します。Mファンドは「30ルーブルの借金」「1ドルの所有」の状態です。その後、為替相場ルーブル売りが激しくなり、1ドル=40ルーブル為替相場に移行しました。②Mファンドは「●月に、1ドル=40ルーブルの価格で取引する」為替オプション取引をロシアのB銀行と結びます。③ロシア中央銀行は管理変動相場制に則り、「1ドル=35ルーブルまで戻す」ことを目標に、「1ドルで35ルーブルを買う」注文を大量に為替市場に出します。為替介入です。④Mファンドは、35ルーブルを再びA銀行から借金して、ロシア中央銀行の「1ドルで35ルーブルを買う」注文に応じ、新たに1ドルを得ます。Mファンドは「65ルーブルの借金」「2ドルの所有」の状態に変わりました。その後ロシア中央銀行の為替介入の結果、1ドル=35ルーブル為替相場に戻りました。⑤為替オプション取引期日の●月になり、MファンドはB銀行に対して約束通り「1ドル=40ルーブル」の価格で、手持ちの2ドルをルーブルに交換させます。2ドルは80ルーブルになって、Mファンドに戻ってきました。MファンドはA銀行に借金総額65ルーブルを返済します。残りの15ルーブルがMファンドの儲けとなります。

 2014年の通貨ルーブルは、下落基調でありながら、ロシア中央銀行によってルーブル高に戻される動きを、繰り返し描いていました。完全変動相場制の場合、投機筋にとっても、相場の動きを読みにくいのが特徴です。一方管理変動相場制の国の通貨が下落に陥った時は、「読める相場」に変わります。「次の相場の動き」に備えて、数々の取引を駆使すれば、投機筋は簡単に儲けられます。ロシアがルーブルを完全変動相場制に移行させた背景には、投機筋の動きを抑える思惑もあります。