工藤会の行方

 5月1日、福岡県警小倉北署の正門に24トンの大型トレーラーが突っ込む事件が起きました。門扉を破壊し、入り口で塞がれて、トレーラーは止まりました。不慮の事故ではなく、運転手が意図的に実行した模様です。運転手は器物損壊容疑で現行犯逮捕されました。憶測を呼ぶ事件です。事件現場となった小倉北署はヤクザ組織1次団体の工藤会に対する捜査拠点です。昨年2014年9月以降、工藤会幹部を続々と逮捕するなど、警察当局の攻勢が続いています。運転手が工藤会関係者かどうかはまだ判明していません。しかし今後の状況によっては、工藤会への取締りが加速するかもしれません。警察当局の取締りが成功した理由として、福岡県警以外の他の地域からの捜査員を活用したことがあります。しがらみのない捜査員の存在は、取締りに役立ちました。

 

 とはいえ、ヤクザ組織の資金獲得において、実行部隊として最前線に立っているのは末端の組員及び周辺者です。「リスクは下に、金は上に流れる」という考えが、どの領域よりも、色濃く根付いているのがヤクザ社会です。上納金制度によりヤクザ組織の幹部(1次、2次団体クラス)は安全に贅沢をできます。裏返せば、ヤクザ組織の上層部は資金源に詳しくないことを意味します。社会の陰で工藤会が形成してきた資金源やネットワークに、一連の工藤会幹部の逮捕が及ぼす影響は小さいです。1次団体・工藤会の形態がどのように変容しようとも、末端組員及び周辺者による裏社会の活動実態は残り続けます。現在の状況から、警察当局の工藤会に対する取り締まりが再度強化されれば、1次団体・工藤会解散が現実味を帯びてきます。表面上、「警察当局の勝利」という幕引きになります。しかし工藤会組員は他のヤクザ組織に身を寄せるか、逆に他のヤクザ組織が北九州市に進出して工藤会組員を囲い込むことになります。工藤会の末端組員及び周辺者にとって「上部団体の衣替え」という事態に過ぎず、普段の裏稼業に与える影響は微々たるものです。

 

 工藤会の消滅が即、北九州市及び周辺地域の治安回復に直結しません。裏社会における経済活動やネットワークを解明、壊滅することが求められます。日本において、ヤクザ組織が有してきた位置は複雑です。泥棒を組織的に行う犯罪集団は、日本社会において、居場所を持つことができません。一般社会における全ての人が犯罪集団を嫌うからです。しかしヤクザ組織に関しては、一般社会の多くから嫌われるものの、一般社会の一部の人達から時として支持されてきた歴史があります。裏社会においてヤクザ組織の力は突出しています。裏社会に昔から君臨し続けています。しかし表裏の壁を取り除き、日本社会全体でヤクザ組織を位置付けてみると、ヤクザ組織が持つ力は小さく限定的です。暴力装置を持つものの、警察組織や自衛隊と比べると、武力に大きな差があります。またヤクザ組織は表立って政治的活動をできず、自民党共産党のように国政や地方政治に直接力を及ぼせません。本来であればヤクザ組織は、裏社会という狭い領域のみに生息する「裏社会の守護者」に過ぎないのです。しかし日本のヤクザ組織の存在は大きいです。

 

 表社会の強者は時として、強さを維持・伸張する為に、「違法的手段」を欲します。「表社会における違法業務」という仕事の需要が増える時期があります。地上げ活動にヤクザ組織が大量活用された1980年代後半バブル期が典型的です。表社会側の人間にとって、「表社会における違法業務」は代償が高いです。一方、裏社会側の人間であれば、簡単に行えます。ヤクザ組織は、組織の為に長期懲役を務めた組員を手厚く処遇します。加えて、裏社会の中で独自の規律を持つヤクザ組織に対して、一定の信頼感が表社会にあります。「表社会における違法業務」はヤクザ組織に集中していきます。「表社会における違法業務」の独占が、ヤクザ組織を延命そして時として肥大化させた要因の1つです。裏社会の性格を持ちながら、表社会でも活動できるという独自の立場をヤクザ組織は構築してきました。社会全体において特異な位置にいることこそが、ヤクザ組織の力の源泉なのです。社会の関係性によって、ヤクザ組織の力は担保されています。だからこそ、警察組織や自衛隊に武力で劣るヤクザ組織が、表社会でも存在感を発揮できるのです。

*ちなみに逆のパターンになる「裏社会におけるやってはいけない業務」は、表社会側の人間にとってハードルは高くありません。例えば、裏稼業で大事な商品である覚せい剤を警察署に届けることは、「裏社会におけるやってはいけない業務」です。裏社会側の人間は怖くて行えません。

 

 ヤクザ組織は独立的に機能していません。「表社会からの需要」がヤクザ組織を駆動させてきた歴史があります。ヤクザ組織が表社会で活発化する時、単独で動いているのではなく、触媒の役割を果たしているのです。つまり時として表社会でヤクザ組織の存在感が大きく映るのは、表社会の住民の誰かが後ろから光を当てているからです。繰り返される事象であるゆえ、今後もヤクザ組織が表社会で活発化する時、表社会の誰の意図によって成されているのかを読み取ることが重要です。工藤会の話に戻ります。北九州市及び周辺地域における工藤会の存在感の大きさは、その地域の表社会と工藤会の密なつながりを物語っています。表社会側の反省も求められます。