ソープランドへの人材供給は誰が担っているのか

 「ソープに沈めるぞ」。多額の借金を背負った女性に対して、悪質な借金の取立て屋が使う決まり文句です。この場合のソープとは、性的サービス産業内に位置するソープランドのことを指します。性的サービスを受ける男性は、ソープランドで数万円以上の高額の代金を払います。ソープランドで働く女性の側からすれば、稼ぎの良い仕事です。借金の取立て屋は、借金がある女性をソープランドで働かせることで、借金の回収を目論みます。

*今回記事を作成するにあたり、『フーゾクの日本史』(岩永文夫講談社+α新書)の情報を参照させて頂きました。

 ご存じのように、ソープランドの実態は複雑です。1958年の売春防止法の施行以前は、赤線という「公認の売春業地帯」がありました。1958年以降も「裏の世界」(法律が機能しない世界)では売春行為は存続し続けています。けれども「表の世界」では、売春を商売にする事は禁止されています。ちなみに、繁華街に溢れる1万円~数万円という料金のピンサロやファッションヘルスといった風俗店でのサービスは、売春行為とは見なされていません。「売春行為に近いサービス」という認識です。「売春」に該当しないので、堂々と「表の世界」で商売ができています。ソープランドも「表の世界」で商売をしています。しかしソープランドでは実質売春行為が行われています。

 ソープランドの表向きの提供サービスは、「女性従業員と一緒にお風呂に入る」という内容です。他の風俗店同様、「売春行為に近いサービス」を商売にしています。ただし、サービスをしている短期間に女性従業員と男性客が恋愛関係になった場合、引き続きその部屋でセックスする事を、ソープランド側は許しています。セックスという行為は、文脈によって、解釈が異なってきます。「恋愛関係」の上で行うセックスは合法であり、これは生物学的にも禁止されることはあり得ません。一方、「金銭関係」の上で行うセックスは、売春行為となり、違法です。つまりソープランド側は、店舗内で行われているセックスは、「恋愛関係」によるものであり、あくまでも合法行為という主張です。しかし実態は、「恋愛関係」という抽象的要素で上塗りされた、売春行為に過ぎません。

 このソープランド側の強引な解釈は、公的機関にも認められています。背景には、もしソープランドでの実質売春を否定して売春全面禁止にした場合、逆に「裏の世界」での売春が栄えるという、警察当局をはじめとした公的機関側の危惧があります。男性側の「性的欲求解消」という需要が一定ある状況で、「売春業」という供給源を全て「裏の世界」に渡すと、「裏の世界」の組織の肥大化を招くからです。ソープランドは今も、「表の世界」で堂々と商売をしています。

 「表の世界」に位置するソープランドですが、ヤクザ組織とのつながりは指摘されています。ミカジメ料やソープランド内の備品をヤクザ組織のフロント企業から調達するなど、ソープランド側はヤクザ組織に利益を提供しています。ヤクザ組織は、現在日本における「裏の世界」のトップ集団です。「裏の世界」では武力を最も備えている為、「裏の世界」での「警察的役割」を果たしています。「表の世界」で完結する商売をしていたら、ヤクザ組織に利益を提供する必要はありません。しかし「表の世界」で主に活動するが、「裏の世界」にも少し関わらないと成り立たない商売の場合、ヤクザ組織に利益提供をする必要があります。少し関わっている「裏の世界」でのトラブル処理を、警察には頼めないからです。金銭目当てに恐喝した相手から逆に、何カ所も骨折させられるほど仕返しされた不良少年は、警察に被害届を出しません。自分の恐喝行為も発覚するからです。

 「裏の世界」でのトラブル処理もしくは便宜は、ヤクザ組織に頼むことになります。その見返りの代表例が、ミカジメ料です。ソープランドが今もヤクザ組織にミカジメ料を払っている事は、ソープランドが「裏の世界」に少し関わっている事を意味します。ソープランドの暗部である「実質売春行為」は、公的機関にも認められている為、「表の世界」で処理できます。理屈上、乱暴な客は警察による対応で済みます。しかし、人材確保という面において「裏の世界」の協力を求める必要があります。ソープランドでの仕事は、高給ではありますが、肉体的・精神的に辛いのは間違いありません。経済的に困窮した女性が、その担い手になっているのが現状です。ソープランド側が苦労するのが、その仕事を行う女性達の確保です。「表の世界」に則った人材募集では、簡単には集まりません。

 経済的に困窮した女性達に近接しているのが、ヤクザ組織とその威光で商売する人達です。キャバクラで働く若い女性が、ホストクラブで散財してしまい、多額の借金を背負ってしまった結果、稼ぎが良いソープランドでの仕事に転職するという、この種の話は巷に溢れています。この際、借金を背負った女性をソープランドにつなげる役割を果たしているのが、ヤクザ組織やその威光で商売する人達です。ヤクザ側とソープランド側には「人材供給のネットワーク」があるのです。人材を送り出す側のヤクザ側は、ソープランドで働かせることで、借金の回収が早く済みます。一方、ソープランド側は、ヤクザ側に頼れば、定期的に人材を受けることができます。逆にもしソープランド側が、ヤクザ側を頼りにせず、自前で人材確保をすると、手間が掛かります。自分達で調査員を雇い、繁華街に行かせて、多額の借金を背負った女性を探さないといけません。

 ソープランド側にとって、ヤクザ組織とその威光で商売する人達は「人材の卸」「人材の商社」になっています。裏返せば、ヤクザ組織とその威光で商売する人達は、経済的に困窮した女性達への近接している事を活かして、「性的サービス業の人材流通経路」を支配しているとも言えます。