鮮魚店の優位性とは

 現在、鮮魚の主要な購入先はスーパーマーケット(以下、スーパー)の鮮魚コーナーとなっています。魚缶詰や冷凍化した魚を除けば、鮮魚は脆弱な特性を持つ商品です。畜肉や果物と比べて、鮮度の劣化が速い為、売り残った鮮魚は在庫ではなく廃棄となります。科学技術を活かして、多様な食品の長期保存化に努めてきた食品業界において、異色の存在と言えます。但し、鮮魚業界で長年培われた仕入の経験則、閉店間際の安値販売に見られる柔軟な販売方法、燻製や干し魚にする等で、廃棄を少なくする手段が多数存在しています。鮮魚業界は、脆弱な要素を持ちつつ、それを補う要素を確立させました。成熟な業界です。

*今回記事を作成するにあたり、水産省のサイトの情報を参考にさせて頂きました。

 鮮魚に関する専門的な知識・技術を持つ人間を揃えないと鮮魚を販売できません。鮮魚の商品特性によって、販売できる小売組織は限定されます。現在では、スーパー、街の鮮魚店が、主な販売プレーヤーです。小売業界で勝ち抜く為には、「独占して販売できる商品」を持つことが鍵となります。現在はコンビニでも販売されていますが、昔薬はドラッグストアや街の薬屋でしか、買えませんでした。海外の高級ブランド店が路面店を出す前は、主に百貨店のテナントで海外の高級ブランド品は売られていました。薬を独占的に販売できる事がドラッグストアや街の薬屋の強みであり、海外の高級ブランド品を独占的に販売できる事が百貨店の強みでした。同様に、スーパーや街の鮮魚店にとって、鮮魚は「独占的に販売できる商品」であり、他の小売組織に対して差別化できる要素なのです。

 昔は街の鮮魚店が、鮮魚の唯一の販売プレーヤーでした。しかし戦後、スーパーが拡大するのと反比例する形で、街の鮮魚店の数は縮小していきました。街の肉屋、八百屋も同じ道を辿ります。巨大な資本力を基に成り立つスーパーは、多様な食料品や衣料品を調達できました。豊富な品揃えを得意とします。消費者側からすれば、スーパーに行けば、全ての買い物を済ますことができます。一方、街の鮮魚店では、鮮魚しか買えません。女性の社会進出に伴い、食料品の購買時間を満足に確保できない消費者が増えたのも、街の鮮魚店には逆風となりました。客足が減ると、赤字が続き、結果廃業に至ります。廃業になった街の鮮魚店を利用していた客もスーパーの鮮魚コーナーを利用するようになります。

 スーパーの鮮魚販売は、売場の裏側で魚を捌き切り身や刺身に加工して、売場の鮮魚コーナーに陳列して販売する方法を採っています。客は陳列された商品を、自ら選び買っていきます。客側の主体性に依存した販売方法になっています。つまり客側が魚の知識、調理方法を熟知している事が前提となっています。しかし今「日本人の魚離れ」が進行しています。水産省のサイトにある「国民1人1日当たり魚介類と肉類の摂取量の推移」のデータによれば、2000年に魚介類の摂取量は1日あたり92gでしたが、次第に落ちていき、2010年には72.5gと下降線を描いています。ちなみに肉類の摂取量は2000年に1日あたり78.2gで、2010年に82.5gまで増加しています。洋食の需要が増えたことが要因の1つですが、「調理しにくい」という魚の特性も要因です。肉に比べて、身が柔らかく、骨が多いので、魚を捌くのは容易ではありません。魚の知識や包丁のテクニックが調理する側に求められます。焼く、煮る作業も難しいです。魚の種類も多く、種類ごとに身の柔らかさや骨の多さが変わってくるので、調理法も変わってきます。料理の素人が外食ビジネスを始める際「肉料理を扱えても魚料理を扱えない」と言われていることは、魚料理の難しさを物語っています。魚独特の強い臭いも敬遠される要素です。

 主要な鮮魚の購入先がスーパーになった現在でも、都会の中で街の鮮魚店を見掛けることがあります。存在することは「需要があること」を意味します。客が街の鮮魚店に求めることは「魚の情報」です。もちろん客が街の鮮魚店で買うのは、鮮魚であり、鮮魚に対してお金を払います。街の鮮魚店は、狭いスペースを売場にする為、対面販売となります。店側と客側の会話が可能です。「日本人の魚離れ」が進行して、消費者が「魚の情報」に疎くなればなるほど、逆に「魚の情報」は希少価値になっていきます。街の鮮魚店にとって、対面販売で伝達できる「魚の情報」こそが付加価値であり、スーパーと差別化できる価値です。店側は、迷っている客に「今日のおすすめの魚」を薦めます。客がその魚の調理の仕方を知らなければ、口頭で教えるか、もしくは紙に簡単なレシピを書いてあげます。客側にすれば、魚の「調理しにくい」という負の要素を解消できます。

 一方、スーパーは基本的に対面販売ではなく、会話が存在しません。客側に「魚の情報」を積極的に伝達できないのが実態です。今後、スーパーが鮮魚の売上を伸ばすのなら、「魚の情報」を上手く伝達することが鍵となります。もちろん回遊性の高いスーパーにおいては、難題ではあります。