ヤクザ業界の競争と独占

 売上を多く稼ぐ事を目的とする企業にとって、同じ市場にいる競合他社は厄介な存在です。競合他社が多ければ多いほど、苦境に陥ります。外食産業が典型的です。素人でも始められるビジネスの為、参入企業が多く、競争は激化します。利幅は薄くなり、長時間労働と低賃金に従業員はあえぐことになります。一方、参入障壁が高く、競合他社が少ない市場では様相が異なります。数社で市場を寡占する為、利幅は厚く、従業員に対して充分な福利厚生と高給を与えられます。消費者にとって企業間競争はプラスですが、企業にとってはマイナスです。市場の独占が企業にとって最も利益を生む形態です。独占禁止法の存在がそのことを裏付けています。

 

 ヤクザ社会も同様に、歓楽街の闇市場の独占がヤクザ組織に莫大な利益をもたらします。ヤクザの稼業は多岐に渡りますが、歓楽街の闇市場からの収入は大きな比率を占めます。代表例は女性接待の飲食店と風俗店等からのミカジメ料の徴収です。1店で月に数万円(風俗店の場合10万円以上)の額ですが、ミカジメ料から派生するビジネスが莫大な富を生みます。ヤクザ組織に押さえられた店は、違法賭博や薬物への経路として機能します。一般人の客は、キャバクラの女性従業員から違法賭博店の遊びを誘われたり、女性従業員を口説いて性行為に及ぶ際覚せい剤の使用を薦められたりします。また歓楽街に集う企業の重役達もヤクザ組織にとって重要な存在です。酒と美女で緩くなった口から漏れ出る企業情報は、経済犯罪の材料や恐喝材料になります。

 

 しかし多くのヤクザ組織が歓楽街の闇市場に拠点を置き活動したがります。1つのヤクザ組織による歓楽街の闇市場の独占は難しいのが実態です。東京都新宿区の歌舞伎町が顕著な例で、沢山のヤクザ組織が入り込んで競争しています。とはいえ地方の歓楽街毎に、闇市場の競合具合は異なっています。札幌、名古屋、広島、福岡の4都市における、ヤクザ組織の競合具合を以下で確認します。1次団体名の後の()内人数は、構成員の数で、警察庁「平成25年の暴力団情勢」からの情報です。

*今回記事を作成するにあたり、『現代ヤクザ大事典』(実話時代編集部編、2007年、洋泉社)、『山口組の100年 完全データBOOK』(2014年、メディアックス)、『裏経済パクリの手口99』(日名子暁、1995年、かんき出版)、『六代目山口組ドキュメント2005~2007』(溝口敦、2013年、講談社+α文庫)、『実話時代』2014年5・8・11月、2015年2・6月号、警察庁「平成25年の暴力団情勢」、読売新聞の情報を参考にさせて頂きました。

 

 札幌市(人口:約190万人)の闇市場は競合組織が多いです。歓楽街・ススキノを抱える都市でもあります。昔は地場のヤクザ組織が存在していましたが、多くが広域ヤクザ組織の傘下に入りました。1985年、地元ヤクザ組織・誠友会が山口組(1万1600人)に、越路家一家が稲川会(3300人)に加入しました。山口組の2次団体・誠友会は、道内最大のヤクザ組織で約800人の組員(2007年時点)を抱えています。誠友会が札幌市でも最大の勢力であると推測できます。他に、山口組の2次団体・茶谷政一家、稲川会の2次団体・木暮一家等が札幌市に拠点を置いています。また山口組の有力2次団体・弘道会の傘下団体である福島連合などの山口組の3次団体も札幌を拠点に活動しています。茶谷政一家は元々、誠友会の有力下部団体、つまり山口組の3次団体でした。2005年8月、茶谷政一家は内部昇格という形で山口組の2次団体に格上げされました。1972年以降、山口組と稲川会は互いを「親戚団体」とする、同盟関係にあります。1989年に誠友会と越路家一家の間で抗争が起きましたが、両組織は基本的に良好な関係にあります。また北海道の場合、地元ヤクザ組織の多くがテキヤ組織だったこともあり、広域テキヤ組織である極東会(880人)に加入する動きもありました。札幌市における極東会下部団体の活動実態は不明ですが、北海道内のどこかに拠点を置いております。極東会は、山口組及び稲川会と同盟関係を持っていません。しかし警察当局の取締り強化により、抗争は不可能な為、現場で折り合いをつけています。

 

 名古屋市(人口:約220万人)の闇市場山口組独占に近い状態です。昔は地場のヤクザ組織が多数存在していましたが、消滅、山口組傘下の道を辿りました。弘道会、杉組、名神会、貝本会、計4つの山口組2次団体が名古屋市に拠点を置いています。4団体とも名目上の力関係は対等です。しかし弘道会組織力が突出しています。同じ山口組の2次団体だけを競合組織とする環境で、大都市・名古屋の闇市場を牛耳れたことが、弘道会の強さの背景にあります。もし稲川会や住吉会(4200人)の2次団体級の組織が名古屋市に拠点を構えていれば、弘道会にとって強い競合組織になったはずで、苦労したはずです。ちなみに人口面だけで比較すると、名古屋市大阪市(人口:約260万人)の約0.85倍の規模です。

 

 広島市(人口:約110万人)の闇市場は共政会(210人)によって独占されています。映画『仁義なき戦い』シリーズのモデルとなった広島抗争を経て、広島の多くのヤクザ組織が集い、1964年に発足したのが共政会です。1970~1971年に内部抗争が起きたものの、以降目立った抗争はなく、共政会が広島市闇市場を独占しています。共政会の2次団体同士の競争はありますが、100万人を超える大都市を1次団体が独占できるメリットは大きいです。広島県沖縄県は、山口組が進出できていない珍しい地域です。山口組の進出例の1つとして、1次団体の内部分裂時に入り込む事があります。現在の広島県の状況は、共政会の結束の固さを示しています。共政会は1990年から山口組と「親戚団体」の関係を結び、同盟関係にあります。

 

 福岡市(人口:約150万人)の闇市場は競合組織が多いと思われます。拠点を置いている主なヤクザ組織は、福博会(220人)、山口組2次団体の3つの組織(伊豆組、光生会、一道会)、そして道仁会(630人)など九州の独立ヤクザ組織の傘下組織です。伊豆組は地場のヤクザ組織でしたが、1961年に山口組の傘下に入りました。光生会は2001年までは伊豆一家という組織名称でした。伊豆一家は伊豆組から派生したヤクザ組織でした。つまり光生会は伊豆組を源流とするヤクザ組織です。福博会は発足当初から伊豆組の関与を強く受けており、山口組と良好な関係にあります。1993年に福博会と山口組は、互いを「親戚団体」とする同盟関係を結びました。