違法領域の売春ビジネスと外国人女性

 1958年施行の売春防止法により、管理売春は日本において禁止されてきました。しかしソープランドや一部の業態では、売春にあたる「本番行為」が行われています。行政や警察当局は、ソープランドでの売春行為を把握しているにも関わらず、見逃しているのが実態です。事実、風俗業務を取り締まる風営法により、ソープランドの存在は認められています。実質的な「合法領域の売春ビジネス」が現在の日本におけるソープランドの位置づけです。一方、「違法領域の売春ビジネス」も存在します。「違法領域の売春ビジネス」に関しては、警察当局は見逃しません。

*今回記事を作成するにあたり、『裏経済パクリの手口99』(日名子暁、1995年、かんき出版)、『極道たちの塀の中』(小田悦治、1993年、にちぶん文庫)、『じゃぱゆきさん』(山谷哲夫、2005年、岩波書店)、『週刊ポスト』2015年6月26日号「2016サミット開催に沸く伊勢志摩を悩ます『売春島』暗暗史」、『日刊ゲンダイ』2014年9月3日号(2日発行)、外務省サイトの情報を参考にさせて頂きました。

 違法領域の売春ビジネスが成り立つ背景として、ソープランドをはじめとする合法風俗ビジネスへの新規参入の壁が高いことがあります。合法風俗業界は特性から、警察当局をはじめとする公的機関の規制を厳しく受けています。新規開店ではなく、既存の風俗店の営業権を買う場合でも、一等地であれば億単位のお金が必要となります。既得権が強い業界です。合法風俗ビジネスの供給先は絞られています。とはいえ、性的サービスの需要はいつの時代も多いです。需要は多いのに、供給が制限されているのが、日本の風俗業界です。需給の偏りは、違法領域のビジネスを活発化させます。違法領域にて売春ビジネスを行えば、摘発リスクは背負うものの、儲けることができるからです。違法領域の売春ビジネスで重要な役割を果たしているのがヤクザ組織です。ヤクザ組織は合法風俗業界においても間接的ながら、大きな影響力を及ぼしています。両方の領域でヤクザ組織は力を持っています。

 また違法領域の売春ビジネスにおける需要側の利点として、価格帯の安さがあります。違法領域のサービスは客側にも摘発リスクを背負わせます。よって違法領域の売春ビジネス業者は、ソープランドより価格を安くする必要があります。ソープランドの場合、例えば高級店であれば、入浴料金2~3万円+サービス提供の女性に渡す約4万円で、計5~8万円ぐらいのお金を払わなければなりません。一方、違法領域の売春ビジネスの場合、昔から「売春島」と呼ばれてきた三重県のW島の実態を描いた『週刊ポスト』「2016サミット開催に沸く伊勢志摩を悩ます『売春島』暗暗史」の記事によれば、現在もW島において違法の売春ビジネスが行われており、「料金は、ハーフ(50分)が2万円、延長が50分毎に2万円、フル(23時~翌朝7時)が4万円だという」となっています。また『裏経済パクリの手口99』(108P)によれば、新宿でタイ人女性の売春婦が目立った時、「売春料は『ショート二万円』『泊まり四万円』が相場であった」となっています。ソープランドの高級店より安く「本番行為」ができる訳です。よって「違法だけどソープランドより安くSEXできる」という誘い文句で、違法領域の売春ビジネス業者は営業することができます。とはいえ、大衆店のソープランドの場合、料金は2~4万円未満です。棲み分けが明確にされている訳ではありません。

 違法領域の売春ビジネスを行うにあたって、1つの問題が浮上します。売春婦の確保です。経済的困窮により、「本番行為」をしてお金を稼ぐ決意をした女性は、基本的にソープランドで働くことを望みます。違法領域の売春ビジネスは摘発リスクを伴うので、好んで行く女性はいません。また違法領域の売春ビジネスの料金はソープランドの料金より低く抑えなければいけない為、働く女性に渡るお金もソープランドより低くなります。ソープランドという「大きな受け入れ先」の存在により、違法領域の売春ビジネス業者は、売春婦の確保に苦労することになります。打開策が外国人女性の活用でした。日本より豊かでない国の人にとって、日本で働くことのメリットは大きいです。日本に出稼ぎで蓄えたお金を、本国に持って帰れば、為替の違いにより「大金」にすることができます。日本国内の低い給料の仕事でも、働く動機は高いです。とはいえ、言葉の壁、外国人労働者規制により、外国人が日本で自由に働くことはできません。外国人女性が日本で「働ける」余地として、存在してきたのが違法領域の売春ビジネスです。

 日本との地理的な関係から、日本における違法領域の売春ビジネスの担い手になったのはフィリピンやタイの女性達でした。それとは別に、外国人女性が日本において合法的な領域で働く経路も存在しています。就労ビザで働く方法です。例えば、日本の合法的な夜の飲食店におけるサービス提供という目的で、日本に短期間就労できます。就業ビザの「興行」の場合、滞在期間は外務省のホームページによれば「3年、1年、6月、3月、又は15日」です。「興行」の就労ビザの世界でも、ヤクザ組織は関与しています。『極道たちの塀の中』(70P)によれば、元ヤクザの著者・小田悦治氏は昭和56年(1981年)頃、フィリピン女性の斡旋の仕事をしていました。『極道たちの塀の中』(71P)によれば、「職業ビザの女性を店に斡旋すると、当時で一人に月約三〇万円、住み込みの場合は約二五万円が店から支払われます。そのなかから女性に払うサラリーは八~一〇万円です。私にとっては、じゃぱゆきさんひとりにつき、一ヵ月約一五万円のシノギになりました」と小田氏は述べています。「じゃぱゆきさん」とは、1980年代、日本に出稼ぎにくる東南アジア女性を指した言葉です。ヤクザ組織が「興行」の就労ビザに関わる外国人女性に大きな影響力を及ぼしていたことが分かります。

 就労ビザには条件があり、全員が申請しても手にできる訳ではありません。就労ビザを得られない外国人女性は、観光ビザで日本に出稼ぎにくるしかありません。しかし観光ビザの滞在期間は90日です。90日過ぎたら「不法滞在者」として扱われます。一方、例えば「興行」の就労ビザで3年間日本に働くことが認められたフィリピン女性は、3年間日本で「合法的存在」として居続けることができます。しかし、観光ビザが切れて不法滞在者になった場合、合法的な領域で働くことは不可能です。日本の違法領域の売春ビジネス業者にとって、不法滞在者となった外国人女性は格好の売春婦の担い手に映ります。不法滞在者となった外国人女性にとっても、日本で自力で生きていくのは難しいので、違法領域でも組織の傘下に入ることは安全保障の意味合いがあります。日本の違法領域の売春ビジネス業者のニーズ、フィリピンやタイ側のニーズ、両方のニーズが結びついて形成されたのが日本の違法領域の売春ビジネスです。また警察当局に頼ることができないビジネスの為、ヤクザ組織が「警察当局の代替機能」として働き、また大きな役割を果たしています。

 フィリピンやタイなどの外国から観光ビザで日本に来る場合、外国人女性は独立的に行動しているのではなく、組織的関与の下で動かされています。ヤクザ組織が影響を及ぼす斡旋業者が主要な役割を果たします。『裏経済パクリの手口99』(107~108P)によれば、日本の斡旋業者がタイ側の業者に女性の手配を依頼し、タイ側の業者は依頼人数分の女性を日本に送ります。対価として、タイ側の業者は女性1人あたり約150万円を日本の斡旋業者に請求します。この取引は人身売買罪の行為に値します。斡旋業者は受け取ったタイ女性を売春クラブなどで、まず約250万円分タダ働きで働かせます。その約250万円からタイ側の業者に払う約150万円を抜いた約100万円が斡旋業者の懐に入ります。タイ女性は、「日本で働くこと」の対価として、「約250万円の借金」を背負わされるのです。約250万円払い終わったタイ女性は、基本的にはその後稼ぎを自分のものにすることができます。しかし不法滞在者である限り、立場は弱く、ミカジメ料など多くの搾取を受けることは想像に難くありません。地方に回される外国人売春婦も多く、群馬や栃木ではセックスコンパニオンや連れ出しパブで働かされるフィリピン女性がいます。