幸平一家は果たして新団体に加入するのか

 8月下旬、突如表面化した日本最大のヤクザ組織山口組の分裂劇は日本の裏社会に衝撃を走らせました。離脱派は山口組内で最大勢力を誇る2次団体・山健組や有力2次団体・宅見組をはじめとした10超のヤクザ組織で構成されています。離脱派は新団体を結成する予定で、団体名は「神戸山口組」となるようです。その新団体に山口組以外のヤクザ組織が加盟するという話が、噂の域を超えないですが、インターネット上で持ちあがっています。多数の組織名が挙がっていますが、中でも注目の的は住吉会の2次団体・幸平一家です。幸平一家は「武闘派組織」と形容されるヤクザ組織で、新宿・歌舞伎町や東中野など都内を縄張りとしています。

*今回記事を作成するにあたり『新装版 ヤクザ崩壊 半グレ勃興―地殻変動する日本組織犯罪地図』(溝口敦、2015年、講談社+α文庫)、『六代目山口組ドキュメント2005~2007』(溝口敦、2013年、講談社+α文庫)、『実話時代』各号の情報を参考にさせて頂きました。

 

 幸平一家のトップは、十三代目総長の加藤英幸です。十三の代目の数が示すように、幸平一家博徒組織として明治時代から活動してきた伝統あるヤクザ組織です。幸平一家の傘下団体として、加藤英幸総長の出身母体である加藤連合会、歌舞伎町で活動する義勇会、新宿や東中野を縄張りとする堺組などがあります。加藤連合会は、歌舞伎町の中でも、突出した戦闘力を持つヤクザ組織と言われています。加藤連合会の存在こそが、幸平一家を武闘派組織と呼ばせています。『六代目山口組ドキュメント2005~2007』(溝口敦、2013年、講談社+α文庫)によれば、幸平一家の組織人数は約800人(245P)です。上位団体の住吉会は、警察庁の「平成26年暴力団情勢」によれば、構成員3400人、準構成員5100人の計8500人を抱えています。幸平一家の組織人数を明らかにした書籍の情報が古いので正確性を欠きますが、単純に比較すると住吉会全体の約10%の組織人数を擁しているのが幸平一家です。加えて、他のヤクザ組織との抗争や内部抗争が少ない住吉会において、「武闘派組織」と形容される幸平一家の存在は異彩を放っています。

 

 現在の住吉会は、2次団体を「傘下団体」とする垂直的な組織形態をとっています。住吉会の現会長である関功が会長に就任した2014年に、開始された体制です。2014年以前は、一時期を除いて、住吉会自体は「連合会型の組織」であり、2次団体は「参加団体」として位置づけられていました。とはいえ近年は、住吉会を構成する大半のヤクザ組織が、住吉一家という巨大2次団体の「傘下団体」になっていました。唯一、住吉一家の「傘下団体」にならなかったのが、幸平一家でした。つまり2014年までは、住吉会の中で、唯一「参加団体」という立場にいたのが幸平一家だったのです。現在、幸平一家の加藤英幸総長は、住吉会において総本部長という最高幹部級の地位に就いています。

 

 関東のヤクザ業界の特徴の1つに、「貸しジマ」という縄張りの賃貸システムがあります。老舗博徒組織を母体とするヤクザ組織は歴史的に縄張りを沢山持っています。一方、新興のヤクザ組織は縄張りを持っていません。関西の場合、抗争などの強硬的手段により、縄張りを奪う方法が一般的です。しかし関東の場合、抗争という選択肢に加えて、縄張りの貸し借りにより解決する方法が存在しました。それが「貸しジマ」です。老舗博徒組織を母体とするヤクザ組織が新興ヤクザ組織に既存の縄張りを貸し出し、代わりに賃料を受け取ります。一方、新興ヤクザ組織は借りた縄張りで資金獲得行為をすることができます。つまり老舗博徒組織を母体とするヤクザ組織は「縄張りの所有権」を維持するものの、「縄張りの利用権」を新興ヤクザ組織に貸し出すという仕組みです。表社会では認められない「縄張りの所有権」ですが、関東のヤクザ業界内では、長年強く認められてきた権利です。都内の繁華街の縄張りを「貸しジマ」として主に提供してきたのが國粹会です。國粹会は老舗博徒集団が集った独立団体でした。しかし2005年、國粹会は一転山口組の傘下に入ります。國粹会の山口組入りは、都内の繁華街の「縄張りの所有権」が國粹会から山口組に移転したことを意味します。関東ヤクザ業界の慣習に従えば、國粹会の縄張りを借りている住吉会、稲川会傘下のヤクザ組織は、縄張りの返却を山口組から告げられたら、返却しなければなりません。山口組は強引な縄張り返却を実施しませんでしたが、2005年以降、首都圏において山口組の影響力は増していきました。

 

 現在、旧國粹会を母体とする組織として、國粹会と落合金町連合という2つの山口組2次団体が存在しています。今回の山口組の分裂劇では、この2団体は、山口組に残留しています。おそらく幸平一家も國粹会や落合金町連合から縄張りをいくつか借りていると思われます。もし山口組と敵対する神戸山口組に幸平一家が加入すれば、当然國粹会や落合金町連合から、縄張りの返却を求められます。しかし幸平一家は老舗博徒組織という顔も持っている為、すでに所有している縄張りも多いです。加えて、旧國粹会の縄張りは銀座や六本木が多く、幸平一家にとって大事な歌舞伎町に旧國粹会が影響力を持っていたという話は聞きません。ともかく國粹会と落合金町連合が現在幸平一家に貸し出している縄張りの数によって、幸平一家の今後の行方は左右されます。もし國粹会と落合金町連合が幸平一家に貸している縄張りの数が多ければ、神戸山口組に加入する可能性はないでしょう。一方、國粹会と落合金町連合が幸平一家に貸している縄張りが皆無か少なければ、神戸山口組に加入する可能性は残されています。しかし神戸山口組に加入となれば、住吉会を脱退しなければならず、幸平一家住吉会を敵に回すというリスクを背負うことにもなります。