野球賭博

 ヤクザ組織の収益源の1つに違法賭博があります。野球賭博公営競技のノミ屋が典型的です。現在、摘発リスクの高さにより、ヤクザ組織が自ら主催・運営する賭博場は縮小傾向にあります。アングラカジノ、手本引やバッタマキの伝統的な博打を実行するには、常設の場所が必要になります。特定の場所に居続ける為、多くの客が訪れる反面、警察の摘発を受けやすくなります。一気に、賭博業に関わる専門人材や客を失い、常設したヤクザ組織は大打撃を被ります。

*今回記事を作成するにあたり、『現代ヤクザ大事典』(実話時代編集部編、2007年、洋泉社)、『極道たちの塀の中』(小田悦治、1993年、にちぶん文庫)の情報を参考にさせて頂きました。

 

 野球賭博公営競技のノミ屋は摘発リスクを抑えられます。野球賭博プロ野球高校野球、ノミ屋は公営競技を対象にします。対象は全て合法的存在です。合法的存在に対して勝手に賭博を設定する形態で、現在のヤクザ組織は賭博業を営んでいます。ゲームの主催・運営業務はせずに、客からの注文対応業務、客への配当・集金業務に専念することができます。電話対応や客への個別訪問の活動が主になり、拠点を固定化せずに済みます。摘発にあうリスクは低いです。野球賭博は裏社会の中で根強く生き残っています。

 多くのスポーツの中で野球が違法賭博の対象になった理由として、認知度の高さに加えて、試合数の多さがあります。野球賭博の中でも、主要なのはプロ野球です。各チーム年間130試合以上行います。日本のプロ野球は2リーグ計12チームで構成されているので、プロ野球全体で年間780(130×6)試合以上実施されています。試合数が多ければ、賭博機会も増えます。ゲーム運営に関与できないヤクザ組織にとって、試合数の多いプロ野球は有難い存在です。プロ野球以外には、高校の全国大会も野球賭博の対象になります。

 野球賭博は、片方のチームの勝ちに賭けるゲームです。特徴は「ハンデ」があることです。ハンデとは「強い側に不利な条件を与える」という意味です。巨人対中日戦で、「巨人の1.5」というハンデが設定されたとします。野球賭博の世界では、中日に1.5点が与えられることになります。つまり「巨人0点対中日1.5点」の状態で試合が始まります。実際の試合で巨人が1対0の1点差で勝った場合、野球賭博上の点数は「巨人1点対中日1.5点」であり、「巨人の負け」となります。実際の試合で巨人が2点差以上つけて勝たないと、野球賭博の世界では「巨人の勝ち」にはならないのです。ハンデ設定は、賭け対象の偏りの防止を目的としています。チーム力に差があり、データが豊富に揃うプロ野球は、プロ野球に精通する人にとって試合結果を予想しやすい傾向があります。しかし胴元としては、「勝った側の配当金」は「負けた側の賭け金」で賄いたいです。参加者の賭け金を両チームに二分させる役割として、登場したのがハンデです。強いチームにハンデを与えることで、試合予想は困難になります。ハンデをつける人をハンデ師といい、ヤクザ組織内に存在しています。ハンデ設定があっても、片方のチーム(仮に巨人とする)に賭け金が集中することがあります。胴元のヤクザ組織としては、巨人が負ければ、沢山の賭け金を得られます。しかし巨人が勝てば、負けチーム(仮に中日とする)に賭けた人の賭け金だけで配当金を賄うことはできません。対策として胴元のヤクザ組織は、他のヤクザ組織が運営する規模の大きい野球賭博に自ら参加し、巨人に賭け金を払います。もし巨人が勝った場合、胴元のヤクザ組織は自ら参加した野球賭博の配当金を、自分達の客に回すことができます。逆に中日が勝った場合、胴元のヤクザ組織の賭け金は戻ってきません。つまり他のヤクザ組織が運営する野球賭博への参加は、保険的な意味合いが強いです。

 「巨人の1.5」というハンデが設定された巨人対中日戦で、ある客が「巨人の勝ち」に20万円賭けたとします。巨人が中日に負けた場合、賭けが外れたので、20万円は全てなくなります。一方巨人が勝った場合、点差によって内容が違ってきます。巨人が6対5で勝った場合、野球賭博上の点数は「巨人6点対中日6.5点」で「巨人の負け」になります。しかし賭け金は全額なくなりません。「賭け金額」×「野球賭博上の点差」の計算式による没収金額で済みます。没収金額は10万円(20万円×0.5)です。没収金額が軽減されます。巨人が6対4で勝った場合、野球賭博上の点数は「巨人6点対中日5.5点」で「巨人の勝ち」になります。配当金額は「賭け金額」×「野球賭博上の点差」の計算式で求められます。10万円(20万円×0.5)の配当金となります。しかし配当金から10%のテラ銭(ヤクザ組織側への手数料)が抜かれます。結局客は、テラ銭10%引かれた9万円を手にすることができます。また巨人が6対4で勝った場合、つまり賭けたチームが実際の試合結果上「2点差以上」つけて勝利した場合、 「巨人の1.5」というハンデがあっても、賭け金額の2倍が巨人に賭けた人に配当されます。配当金は40万円(20万円×2)となり、テラ銭10%引かれた36万円を手にすることができます。賭けたチームが勝った場合、点差によって配当金額が大きく変わってきます。点差が重要な要素となっています。