井村屋の肉まん・あんまん

 寒さが増して、肉まん・あんまん等の中華まんを一層美味しく食べられる時期になってきました。コンビニエンスストアでスチーマー販売されている中華まんの最大の特長は、「温かさ」です。冬の食事において重要な要素となるのが温かさです。冬では、味の良い料理でも冷めれば価値は急落します。つまり中華まんの味を担保しているのは、温かさなのです。中華まんを現在の高い位置に押し上げたのが井村屋です。1964年、日本人の好みに合わせた肉まん・あんまんを発売し、ヒットさせました。

*今回記事を作成するにあたり『日刊ゲンダイ』2015年11月14日号(13日発行)「このヒット商品と会社の秘密 肉まん・あんまん 井村屋」の情報を参考にさせて頂きました。

 井村屋は前年の1963年にアイス事業を開始していました。冬になれば、アイスクリームの売上は落ち込みます。冬季の売上を補う為に、発売されたのが肉まん・あんまんだったのです。夏に強いアイス事業と、冬に強い中華まん事業を、両方行うことで、年間の売上は安定します。ちなみに関西圏のみに店舗展開している豚まんで有名な蓬莱も、豚まんを主力とする中華料理とアイスキャンデーの両方を扱っています。井村屋は味の改良を行いました。当時の肉まんは具の味が薄く、からし醤油をつけて食べるのが一般的でした。井村屋は気軽に食べられるように、具に味をつけて、からし醤油なしで食べられるようにしました。あんまんは、こしあんに油を加えた中華あんが当時一般的でしたが、粒あんを使用しました。

 また小売店にスチーマーを設置して、すぐに温かい中華まんを食べられるようにしました。背景には、当時電子レンジが普及していなかった為、家庭内において中華まんを温めることの難しさがありました。家庭という領域において、小腹を満たす食べ物に過ぎない中華まんを蒸す行為は、経済的ではありません。井村屋は「蒸すという作業」を家庭ではなく、小売店の段階に移行させたのです。中華まんを大量に販売する小売店であれば、常時スチーマーを稼働させられます。小売店でスチーマー販売される「井村屋の中華まん」は、家庭内での「蒸す作業」という手間を省かせたのです。中華まんの商品自体の改良のみならず、中華まんの商品特性に沿った販売形態を構築したところに、井村屋の巧みさがありました。