神戸山口組に移籍した2次団体

 8月下旬に起きた分裂騒動により、山口組山口組(六代目山口組)と神戸山口組の2つの組織に分かれました。騒動から3カ月半を過ぎて、両組織間の勢力均衡に変化が生じています。山口組側から神戸山口組側に移籍する2次団体が相次いでいるのです。分裂騒動後に移籍したということは、「山口組への残留」よりも「神戸山口組への移籍」にメリットがあったことを意味しています。もちろん他の要因として、山口組内での人間関係における煩わしさ、神戸山口組からの熱心な勧誘等も大いに作用しています。「神戸山口組への移籍」のメリットの1つが、1次団体に支払う上納金の安さです。役付きのない2次団体トップの場合、月額10万円で済みます。役職付きの2次団体トップでも、月額30万円です。一方山口組の場合、分裂騒動前1次団体に支払う上納金は、月額115万円でした。加えて、雑貨購入や司忍組長の誕生日代など、他の高額な出費もありました。分裂後、山口組側は傘下の2次団体に対して上納金を減額しました。しかし神戸山口組側の上納金額までには、減らせていません。警察当局と攻防を強いられる裏稼業を資金源とするのがヤクザ組織です。正業と異なり、裏稼業は瞬間的な利益は大きいですが、利益を継続的に獲得しにくい性質があります。つまり収入面が不安定なのです。一方、ヤクザ組織は毎月一定額を上部団体に支払う義務を負っています。収入面は不安定で、支出面は安定的な経済活動をどのヤクザ組織も強いられています。年に何回か収支に支障が生じ、上納金を支払えない事態が起きることは容易に想像できます。山口組の2次団体であれば、多くの傘下団体(3次団体)を持っているので、傘下団体からの上納金だけで潤っている印象を持ちます。しかし年々ヤクザ組織の経済活動領域は狭まっており、資金源は細くなっています。警察当局の厳しい取締りにより、ヤクザ組織の構成員数は下落の一途を辿っています。結果的に、2次団体に上がってくるお金が減っています。山口組と同等の「裏社会におけるブランド効果」を持ちながらも上納金の低い神戸山口組は、山口組2次団体にとって魅力的に映ってしまいます。

*今回記事を作成するにあたり『山口組 分裂抗争の全内幕』(盛力健児+西岡研介+鈴木智彦+伊藤博敏+夏原武、2015年、宝島社)の情報を参考にさせて頂きました。

 分裂騒動後に、山口組から神戸山口組に移籍した2次団体は、東生会(大阪府淀川区)、熊本組(岡山県玉野市)、古川組(兵庫県尼崎市)の3つです(東生会は9月に山口組から除籍されています。後に、神戸山口組入りしていますので、移籍とはいえないかもしれませんが。今回の記事では「移籍」扱いと致します)。一方、神戸山口組の2次団体が山口組に戻った例は1つもありません。また山口組側に残留しているものの、大石組(岡山市)や光生会(福岡市博多区)、一道会(福岡市中央区)は、傘下組織(3次団体以下)が神戸山口組に移籍するという事態に見舞われています。神戸山口組に移籍した3団体を見ると、地域的事情も移籍の背景にあったことが、透けて見えます。熊本組が本拠地とする岡山県には、神戸山口組の中核組織である池田組がいます。また山口組側にいる大石組の一部の傘下団体は、神戸山口組側に移籍しています。岡山県内で神戸山口組勢力が増す中、熊本組が「神戸山口組の敵対組織」として存在し続けるのは困難を伴います。神戸山口組に移籍した方が無難であると考えるのは合理的です。東生会と古川組も同様です。現在大阪府エリアにおいて、山口組側の2次団体は章友会(大阪市北区)、極心連合会(東大阪市)、大原組(大阪市生野区)、健心会(大阪市浪速区)、織田組(大阪市中央区)、一会(大阪市北区)、中西組(大阪市中央区)、中島組(大阪市淀川区)、一心会(大阪市中央区)、秋良連合会(大阪市浪速区)、極粋会(東大阪市)、早野会(大阪市北区)、𠮷川組(大阪市中央区)、朋友会(大阪市西成区)、計14団体です。一方、大阪府エリアにおける神戸山口組側の2次団体は宅見組(大阪市中央区)、毛利組(吹田市)、黒誠会(大阪市北区)、奥浦組(東大阪市)、そして移籍してきた東生会(大阪市淀川区)、また分裂騒動を機に新たに加わった英組(大阪市西淀川区)、誠会(大阪市西成区)、澄田会(大阪市港区)、計8団体です。まだ山口組勢力が2次団体の数では多いとはいえ、神戸山口組も一定の勢力を誇っています。東生会が移籍した背景には、地域的事情があったのかもしれません。また現在兵庫県エリアにおいて、山口組側の2次団体は岸本組(神戸市)と竹中組(姫路市)の2次団体です。一方兵庫県エリアにおける神戸山口組側の2次団体は、山健組(神戸市)、俠友会(淡路市)、松下組(神戸市)、西脇組(神戸市)、真鍋組(尼崎市)、そして移籍してきた古川組(尼崎市)、計6団体です。1次団体・山口組の本拠地である兵庫県において、神戸山口組側が山口組側を上回っています。移籍した古川組にとっては、兵庫県内で他の神戸山口組側と敵対関係に陥るのは、活動の困難さを考えたのでしょう。

 とはいえ、神戸山口組の求心力となっている上納金の低さは、ヤクザ組織にとってマイナスな要素もあります。上納金の存在は、ヤクザ組織運営上多様な役割を果たしています。組織の財政的維持に加えて、構成員を活性化する機能もあります。ある3次団体のトップは、2次団体の子分でもあり、2次団体に毎月上納金を払っています。当然その上納金は、「3次団体構成員(子分)からの上納金」で成り立っています。3次団体で日常的に活動する構成員にとって自身が払う上納金は、親分である3次団体トップの懐を潤わせるだけでなく、親分が「2次団体の子分としての務め」を果たすのに使われています。構成員にとって、自身が支払う上納金には多義的な意味があるのです。上納金の存在は、「自分の上納金の支払いは困難だが、親分も同等に上納金の支払いに苦しんでいる」という共感を構成員に持たせることができます。結果的に、親分が上部団体に支払う上納金額が増えても、子分が比例した上納金を親分に支払うべく、裏稼業に邁進していくのです。しかし一転、親分が上部団体に支払う上納金額が減ると、問題が生じてきます。構成員にとって、親分が上部団体に支払う上納金が減った分、自身が親分に支払う上納金も比例して減らして欲しいはずです。もし親分が上納金を減らさなければ、構成員にとって自身が支払う上納金は「親分の懐だけを潤わせる」という単一的な意味に変化していきます。親分や組織への忠誠心は薄まり、組織は活性化しなくなります。神戸山口組の傘下組織は、1次団体への上納金減額を巡り、潜在的な組織内トラブルを内包しているのです。時間が経てば、問題が表面化してきます。もちろん山口組側は、内紛に付け入り、自陣に引き込む動きを画策するはずです。神戸山口組の前途も明るい訳ではありません。