ヤクザ組織の内部昇格を巡る問題

 山口組のような広域ヤクザ組織に見られる動きの1つとして、内部昇格があります。例えば山口組という1次団体において意味する「内部昇格」は、2次団体の傘下団体(3次団体)が2次団体に昇格するということです。近年でも山口組の例を見ると、2009年1月に2次団体・弘道会の傘下団体の淡海一家、2013年10月に2次団体・極心連合会の傘下団体の極粋会、2015年6月に2次団体・弘道会の傘下団体の司興業などが、内部昇格し2次団体になりました。2次団体のヤクザ組織とはいえ、大規模な組織であれば、数百人はいます。しかし数百人が「1つの組織」として、日常的に活動を共にしいている訳ではありません。数百人の構成員を擁する2次団体の場合、傘下団体をいくつも持っています。つまり数十人規模の構成員を持つ3次団体が多数集まって、数百人規模の2次団体を構成しています。さらに大規模な3次団体の場合、自らの傘下団体(4次団体)も持っています。内部昇格する組織の増加により、利を得るのは1次団体です。1次団体は2次団体から上納金を受け取る立場であり、2次団体の数が増えれば潤う仕組みを持っています。裏社会で生まれた金の多くは今も、最終的にヤクザ組織の1次団体に行きます。巨額な金です。「親子関係」という垂直的関係を軸に組織を構成しているヤクザ社会では、1次団体においてもそのトップの力は、象徴的な意味も加わり、絶対です。1次団体に収まる金の扱い方は、トップの考え方次第となります。当然、上納金の扱い方を巡り、広域団体の内部紛糾の火種となりやすいです。実際山口組分裂の要因の1つとして、上納金を巡る問題が挙げられます。

*今回記事を作成するにあたり『週刊実話』2016年1月21日号の情報を参考にさせて頂きました。

 

 1次団体側がより多くの上納金の吸い上げを目論んだ場合、取る手段は2つあります。①上納金の増額、②2次団体数の増加です。上納金の増額は、確かな理由が求められます。一方、2次団体数の増加の場合、内部昇格により「組織の活性化イメージ」が生まれる為、実行されやすいです。昔は、内部昇格以外にも、2次団体を増やす手段がありました。独立ヤクザ組織の吸収です。1990年に愛桜会三重県)、1991年に瀬戸一家(愛知県)、平井一家(愛知県)、源清田会(新潟県)、2005年に國粋会(東京都)の独立団体が山口組の傘下に入りました。2次団体数の増加を、「外部」に求めることができていました。しかし2005年以降、山口組において一定規模の独立団体の吸収事例はありません。戦後に存在した独立団体の多くは現在、広域団体の傘下にあるか、解散しています。裏返せば、2次団体数の増加を、「外部」に求めることができない時代なのです。結果的に、1次団体側がより多くの上納金の吸い上げを目論んだ場合、内部昇格の選択肢を取ることになります。

 

 1次団体において意味する「内部昇格」において、恩恵を受けるもう1つの主体は、内部昇格する組織です。内部昇格した組織は、以前の上部組織の2次団体に上納金を払わず、1次団体に直接支払うことになります。一般的に2次団体に支払う上納金より、1次団体に支払う上納金の額の方が大きいです。負担は増します。しかし例えば「直参」と呼ばれる山口組2次団体の長は、ヤクザ社会において「大きな権威」です。2次団体になることで、組織の知名度は上がり、裏社会の大きな利権に直接携われやすくなります。しかし警察当局の厳しい取締りや不景気の影響で、ヤクザ組織の活動領域は年々狭まりつつあります。内部昇格して、額の大きい上納金を払っているにも関わらず、新しい資金源を得ることができない2次団体もあります。加えて2次団体になれば、警察当局の摘発対象になりやすいです。

 

 一方、傘下組織を送り出す2次団体にとって、1次団体において意味する「内部昇格」は損失です。1次団体側は、内部昇格候補の組織として、多数の構成員を抱えて複数の資金源を持つ有力な3次団体を選出します。裏返せば、2次団体は有力な傘下組織を失うことになります。2次団体に収まる上納金は減ります。1次団体において意味する「内部昇格」は、送り出す2次団体を弱体化させる働きがあります。山口組の統括委員長でもある橋本弘文がトップを務める極心連合会は、2013年10月傘下団体の極粋会が内部昇格したことで、資金的に厳しくなったと言われています。どの2次団体にとっても、傘下組織の内部昇格は避けたいです。一方、1次団体側は上納金を増やす為に、内部昇格を多く行う意向を持っています。現在の広域団体において、2次団体と1次団体は対立する考えを持っています。加えて、2次団体傘下の内部昇格志向の強い3次団体の動きも絡まれば、事態は複雑になります。内部昇格を巡る動きも、広域団体の内部紛糾の火種となります。