日銀のマイナス金利

 日本の中央銀行を務める日本銀行(日銀)がマイナス金利に踏み切ったことが話題となっています。日銀への「預金者」は日本の民間銀行に限られています。日本の民間銀行は保留している現金を一部日銀に「預金する」義務を負わされています。銀行預金準備制度といいます。経済の要である銀行の経営が不安定にならないように、銀行の預金の一定比率以上を日銀に強制貯金させて、銀行の経営の安定化を図る狙いの基に始まった制度です。民間銀行が日銀に預ける預金は日銀当座預金と呼ばれます。しかし日本が先進国化したのに加えて、1990年代後半から日本経済がデフレーション(物価下落)に陥ったことにより、民間銀行の貸出し額は伸び悩みます。日銀のデータ「貸出金/末残/銀行勘定、信託勘定、海外店勘定合計/国内銀行」によれば、国内銀行の貸出金は2001年1月に約469兆円、2005年1月に約394兆円の数値を示しています。この間下落の一途を辿っています。2010年1月には約418兆円、2015年1月は約447兆円の数値を示しています。この間は上昇しています。しかし2001年から現在まで、貸出金が伸びていないことが分かります。民間銀行としては貸出したくても、成長産業が乏しい現在の日本において、確実に回収の見込める産業・法人が減少しているのです。

 代わりに、民間銀行は日本国債の購入に資金を回すようになりました。当然、民間銀行が国債ばかりを買うと、市中にお金が回りません。日銀は金融政策として、民間銀行から国債を買い上げていきます。しかし民間銀行は国債を売るものの、売却資金を法人への貸出しに回さずに、今度は日銀当座預金に積み増す施策をとったのです。日銀当座預金も「預金」である以上、日銀から金利が付きます。直近では、年0.1%の金利が付いていました。民間銀行は日銀に1億円預けておくだけで、10万円の金利を受け取ることができたのです。

 裏返せば、日銀当座預金のこの0.1%が民間銀行の「貸出し利回りの下限」となってきました。民間銀行としては、利回りが0.1%を下回る案件に貸出すことは無意味なのです。法人に貸出して回収できなくなるより、日銀に預けてわずかな金利を受け取ることを民間銀行は選ぶ傾向にあります。つまり民間銀行の現金が「国債→日銀当座預金」にシフトしただけで、市中に回るお金が増えていないのです。

 今回日銀は、日銀当座預金から民間銀行の現金を吐き出せるために、年マイナス0.1%という金利を日銀当座預金に適用することにしました。つまりある民間銀行が日銀に1億円を預けた場合、10万円を日銀に「マイナス金利」として支払う必要が生じてくるのです。しかしマイナス金利の導入でも、民間銀行の貸出し意欲のなさを示す兆候が現れています。

 国債金利の低下です。マイナス金利導入の発表以降、日本の長期金利となる新規10年物国債金利は低下しています。2月9日の東京債券市場において、新規10年物国債金利終値はマイナス0.025%でした。ニュースに登場する「国債金利」は、債権市場における利回りを意味しています。国債購入者に、年二回支払われる表面利率の利回りとは異なります。つまり期日に日本政府から支払われる「額面価格」と、債権市場で購入する「市場価格」との差額による利回りのことです。債権は、額面価格と市場価格の差が離れている程、利回りは高くなります。一方、額面価格と市場価格の差が小さい程、利回りは低くなります。

 新規10年物国債金利のマイナスになったことは、国債の市場価格が高騰していることを意味しています。つまり国債の需給が逼迫しているのです。民間銀行が日銀に国債を売らずに保有する動きが読み取れます。民間銀行が国債保有し、債権市場に国債が流れないので、国債需給の逼迫に至るという流れです。民間銀行は現金の運用先を「日銀当座預金国債」に再度戻すことで乗り切るつもりなのです。ちなみに日銀が科すマイナス金利ですが、日銀当座預金の一部にしか適用されません。日銀当座預金は現在、基礎残高、マクロ加算残高、政策預金残高の3つにより構成されています。基礎残高は現在0.1%の金利が継続されます。一方、マクロ加算残高に金利0%、政策預金残高に金利マイナス0.1%が適用されます。しかし日銀当座預金において政策預金残高が占める割合は多くなく、影響自体は微々たるものとされています。しかし今後日銀が基礎残高、マクロ加算残高にもマイナス金利を適用する可能性が充分にあります。民間銀行が将来の全面適用を懸念して、今後国債保有の動きに走ることが予想されます。とはいえ民間銀行は現金のいくらかを日銀当座預金に預ける必要がある為、損失を覚悟する必要があります。対策として民間銀行が貸出しの厳格化、債権の早期回収等を始めることも予想されます。その場合、経済全体にも悪影響を与えることは必至です。