ヤクザ組織は風俗業に足跡を残す

 年々ヤクザ組織は表社会から存在感を消し、裏社会に潜る傾向が強まっています。背景には、警察当局の厳しい取締り、社会全体によるヤクザ組織排除の動きがあります。ヤクザ組織の実態をつかみにくくなっています。しかしヤクザ組織が裏社会に深く潜っても、必ず足跡を残す領域があります。街の繁華街です。風俗店が多数ある、つまり猥雑な繁華街をヤクザ組織は特に好みます。郊外の大きな都市でも、健全な要素が強く風俗店がない繁華街はヤクザ組織に好まれません。小さい都市でも、風俗サービスがある温泉街をヤクザ組織は好みます。つまり繁華街の規模ではなく、繁華街の構成要素によって、ヤクザ組織は活動範囲を決めています。風俗業はヤクザ組織と親和性の高いビジネスです。風俗業が事業の性格上、違法領域に極めて近いことが大きな要因です。売春行為という違法サービス、従業員の確保困難による未成年や不法滞在外国人の雇用という違法行為など、常に警察当局の摘発リスクに面しているのが風俗業です。加えて、風俗業は客と身体を密に接するサービスの為、客とのトラブルが必至です。穏便に客側に引いてもらう「装置」が必要になります。ヤクザ組織が付け入る余地が風俗業にあったのです。長年ヤクザ組織が「警察の代わり」として風俗業のトラブル処理を担ってきました。代償としてミカジメ料という形で、風俗店は毎月金銭をヤクザ組織に支払ってきました。一般的な風俗店の場合、月に数万~10万円、存在自体が違法である無許可店は月に数十万円のミカジメ料をヤクザ組織に払っています。風俗店・風俗サービスがある地域には、何らかの形でヤクザ組織が活動しています。風俗業の生息範囲とヤクザ組織の活動範囲はほぼ重なるのです。裏に潜りつつあるヤクザ組織ですが、今後も風俗業のある所には足跡を残し続けるでしょう。

*今回記事を作成するにあたり『ヤクザ1000人に会いました!』(鈴木智彦、2012年、宝島SUGOI文庫)、『潜入ルポ ヤクザの修羅場』(鈴木智彦、2011年、文春新書)、『週刊実話』2015年10月22日号「風俗新潮流 大阪・飛田新地」(慶封水著)の情報を参考にさせて頂きました。

 戦後の日本の風俗史を語る上で、重要な年が1958年です。売春防止法が施行された年です。1958年前までは、日本において売春は半ば合法的な立場を得ていました。1947年GHQの指示により、戦前からあった公娼制度は廃止されます。戦前の日本において、売春業は合法的な事業として認められていました。GHQの指示により公娼制度は表面上廃止されたものの、売春街は「赤線」と名前を変えるだけで、1958年まで売春業は実質残り続けたのです。しかし1958年施行の売春防止法には強い拘束力があり、全国の赤線は消滅の道を辿ります。売春業は「風俗業」に転換していきます。風俗街として残り続けている旧赤線地帯もあります。代表的なのが大阪の飛田新地です。大阪市西成区にある飛田新地の場合、ただの風俗サービスではなく、実質売春行為が行われています。飛田新地において実質売春行為を事業として行っている主体は料亭で、客相手にサービスを行うのは料亭の仲居です。つまり客と仲居が料亭内で自由恋愛に至り、行き過ぎた結果、性行為が行われただけで、売春行為自体を提供してないという見解を飛田新地の料亭側は主張しています。同じく実質売春行為が行われているソープ店も「自由恋愛」という言葉を駆使しており、「自由恋愛」は風俗業界のマジックワードと言えます。さて強引な解釈ですが、なぜか飛田新地の存在は行政に認められてきました。飛田新地におけるサービスは特殊です。『週刊実話』2015年10月22日号「風俗新潮流 大阪・飛田新地」によれば、著者の慶封水は「飛田の値段は決して安くはない。税込で15分1万1000円、20分1万6000円、30分2万1000円が一律の料金だ」(p71)と述べています。長くても30分という「プレイ時間の短さ」が飛田新地の特徴です。飛田新地の「短時間の売春行為サービス」は、俗に言う「ちょんの間」という形態です。関東でも、昔横浜の黄金町が大きなちょんの間街として有名でした(2004年の浄化作戦で現在は消滅しています)。

 先の慶封水の記事で、雰囲気を感じることができます。慶封水は「とびっきりの美女に淡い恋心を抱いて料亭へ。玄関で靴を脱ぐと、手を握られながら2階へと飛田嬢が案内する。6畳ほどの畳部屋に布団が一組。アニメ絵柄のブランケットが印象的な部屋で時間を決定。料金を支払うと、いったん飛田嬢は1階に下りて、今度はお茶を持って現れた」(p71)と述べています。その後は、即売春行為のサービスが提供されます。長くても30分で済ます為に、リップサービスなどの余計な性サービスはありません。飛田新地はヤクザ組織との関与は薄いとされています。飛田新地がある大阪市西成区は、ヤクザ組織が多く集まっている地域です。ドヤ街である西成区は、ホームレス界の序列が存在するほど、ホームレスが多く集まっています。異様な様相を呈する街です。一般人が近寄りがたく、一般社会と距離の遠い人達が集まる場所では、1つ1つの違法行為の存在は極めて薄くなります。違法行為が日常化しており、裏稼業人にとって活動しやすい土地なのです。覚せい剤や麻薬の販売、違法品の販売、ノミ屋の営業などが、多数行われています。『潜入ルポ ヤクザの修羅場』(鈴木智彦、2011年、文春新書)によれば、「これだけの暴力団過密地帯なのに、飛田を直接シノギにしている暴力団がいない。あちこち訊いてみたが、それらしい事実は見当たらない。みかじめ料も一切払っていないようだ。腑に落ちない話だ」(p224)と述べられています。今なお飛田新地の存在が許されているのに加えて、ヤクザ組織との関与の薄さは、飛田新地の不可思議さを一層増します。