テキヤ組織の縄張り

 祭りや縁日、または平日の道路において物を販売する露店商はテキヤ組織に属しています。日本最大のテキヤ組織である極東会は「指定暴力団」として公安委員会により指定されています。1992年に施行された暴対法は、指定暴力団の構成員に、活動の制限や重い刑罰を科すことを可能にしました。同じく指定暴力団山口組住吉会の傘下団体にも、テキヤ組織またはテキヤ組織を源流とするヤクザ組織が存在しています。しかし全てのテキヤ組織つまり露店商の集う組織が、指定暴力団(つまりヤクザ組織)内に収まっている訳ではありません。組織上、ヤクザ組織と関係のないテキヤ組織は存在しています。とはいえ、ヤクザ組織に属さず、出店の際警察や保健所に公的書類を提出しているテキヤ組織でも、稼いだ金額の一部をヤクザ組織に渡す慣例が残っています。濃淡の差はあれ、どのテキヤ組織もヤクザ組織と何らかの関わり方はしているのです。

*今回記事を作成するにあたり『テキヤはどこからやってくるのか? 露店商いの近現代を辿る』(厚香苗、2014年、光文社新書)、『現代ヤクザに学ぶ「銭の作り方」』(別冊宝島編集部編、2008年、宝島SUGOI文庫)の情報を参考にさせて頂きました。

 

 テキヤ組織がヤクザ組織と近接している理由の1つに、テキヤ組織における人を受け入れる際の開放性の高さがあります。前歴に問題がある人でも、本人の意思があれば、受け入れてきました。ヤクザ組織同様、テキヤ組織は一般的な生業に就くことが難しい人の「受け皿」として機能していたのです。1923年の関東大震災や昭和の恐慌時に、生活に困った人達がテキヤ組織に入り、テキヤ組織は拡大していきます。太平洋戦争後の混乱期も、テキヤ組織は失業者を吸収し組織を拡大、闇市の場で活躍しました。社会の混乱期に、困窮する人々を受け入れて、組織の拡大を図ってきたのがテキヤ組織なのです。テキヤ組織は、基本的に成人男性しか加入できません。祭りの露店で働く女性は、あくまでも「協力者」の位置づけとされています。またマスコミにおいては「露天商」と表記されることが多いです。『テキヤはどこからやってくるのか? 露店商いの近現代を辿る』(51P)では、「他方のマスコミは、不動産としての店を持っていない商人たちの『天』にさらされた商いと認識しているようである」と述べられています。一方、露店商達は自らを「露店商」と定義して、表記しています。一般社会の世相を伝えるマスコミとテキヤ組織による表記の違いは、現在の一般社会とテキヤ組織の「距離の遠さ」の一端を示しています。

 

 テキヤ組織の縄張りを「庭場」と言います。庭場の管理には2種類あります。単独のテキヤ組織がある地域の庭場を独占している場合と、複数のテキヤ組織が庭場を共同管理している場合です。東京の下町においては、後者の共同管理が一般的です。複数のテキヤ組織により共同管理される庭場はアイニワ(合庭)と呼ばれています。1つの縄張りを複数の組織で治める方法は、組織間の衝突を生じさせる可能性を持っています。しかしアイニワの存在によって、祭りや縁日の露店商売は魅力を高めることができています。テキヤ稼業は多岐に渡っています。サンズンと言われる組立式の露店で焼きそばやフランクフルトなどを販売する「サンズン」、客に積極的に声を掛けて話芸で商品を買わせる「コロビ」という稼業などがあります。各テキヤ組織は、幅広いテキヤ稼業の全てを網羅している訳ではありません。特定の稼業に特化しています。よって「コロビ」稼業専門のテキヤ組織が独占している庭場の祭りや縁日では、原則的には「コロビ」系の露店しか出ないことになります。露店全体の魅力は低く、客に飽きられていまします。一方、アイニワの場合、複数のテキヤ組織がいるので、「サンズン」系や「コロビ」系の露店、またその他の露店を出すことができます。露店全体の魅力は高く、客に飽きられません。

 

 アイニワにおいて、重要な仕事が「ミセワリ」という露店の配置です。店の立地条件は、商売に大きく影響を及ぼす要素です。各テキヤ組織にとって妥協できない領域です。また店の配置は、テキヤ組織間の力関係を可視化させてしまいます。『テキヤはどこからやってくるのか? 露店商いの近現代を辿る』(145P)によれば、「これは売り上げが良い悪いということのほかに、非日常的な場で、神聖とされる場所と彼らの露店との位置関係に、テキヤ社会全体における自分の立ち位置が反映されることを彼らは感覚的に知っているためだ」と述べられています。よってミセワリは、複数の意味で、重要な行為となります。また庭場は慣習的に形成されて、公にされてこなかった為、各テキヤ組織が認識している庭場の情報は限定的です。各テキヤ組織は管理する庭場と周辺の情報しか持っていません。『テキヤはどこからやってくるのか? 露店商いの近現代を辿る』(157P)によれば、「つまり、なわばりというのは組合でも簡単に把握できないほど複雑なものだといえるし、よその集団のことは知らなくても、自分とその周辺のことだけを知っていれば商売に支障がないともいえるのかもしれない。必要のあるときにはしっかりと関わり、信頼関係は築いておく。しかし、過干渉になることは避ける―」と述べられています。テキヤ組織特有の考え方と言えます。