稲川会の執行部

 広域ヤクザ組織の稲川会にて、今月役員の人事異動が行われました(*1)。稲川会は2015年末時点、構成員2700名、準構成員等を合わせると計5800名を抱える日本で4番目に大きいヤクザ組織です(*2)。「1次団体のヤクザ組織」である稲川会は、多数の傘下団体(2次団体)により構成されています。一定の組織人数を持ち、各都市の裏社会を牛耳る2次団体もしくは3次団体のトップ達が「子分」として集う組織です。日本最大のヤクザ組織山口組の場合、「1次団体の子分」は2次団体トップのみに資格が与えられています。しかし稲川会の場合、有力な3次団体トップであれば、「1次団体の子分」になれる仕組みをとっています。子分達の「上」に立つのが五代目会長の清田次郎です。「1次団体の子分」数は、現時点では分かりませんが、五代目体制開始時の2010年4月では66人でした(*3)。2010年末時点、稲川会は構成員及び準構成員等含めて計9100名を抱えていました(*4)。組織人数が約4割減になっています。山口組住吉会も同程度の減少をしており、稲川会特有の問題ではありません。背景には、2011年全国で施行された暴力団排除条例があります。以降、ヤクザ組織全体に対して取締りが強化されました。よって稲川会の「1次団体の子分」数も、2010年時点の66人よりは減少している可能性が高いです。しかし未だに数十名規模の人数により構成されていると考えられます。

 

 「1次団体の子分」達同士の関係は、「親分・清田次郎の子」という立場を皆有する為、等しいです。しかし数十人規模の組織になると、内部に「上の層」をあえて作り、有力な少数者達に権限を集中させる方法が、組織運営上、機能しやすいです。つまり執行部の設立です。広域ヤクザ組織には、執行部が存在しています。稲川会の場合、執行部の中でも、さらに「3段階の序列」があります。大まかに「執行部の上層」「執行部の中層」「執行部の下層」に分けることができます。稲川会において「執行部の上層」に位置するのが、「理事長」、「総本部幹事長」、「総本部本部長」の3役職です。稲川会において、理事長はナンバー2の地位を示しています。現在、稲川会では内堀和也・山川一家総長(川崎市)が理事長、小原忠悦・三日月一家総長(木更津市)が総本部幹事長、吉原勝彦・七熊一家総長(船橋市)が総本部本部長を務めています(*5)。

 

 「執行部の中層」には、組織委員長、渉外委員長、運営委員長、慶弔委員長、統括委員長の5役職があります。稲川会における各役割の重要な責任者です。例えば渉外委員長の場合、他団体との交渉において、重要な責任者となります。総本部幹事長の小原忠悦は渉外委員長、総本部本部長の吉原勝彦は組織委員長を経験しています(*6)。今回の新人事においては、主にこの5役職に変化がありました。原因は、今年初めに起きた前組織委員長の戸上光雄・紘城一家総長(小田原市)の稲川会脱退(稲川会においては破門処分)です。この間、組織委員長は空席が続いていました。

 

 戸上光雄が脱退するまでは、以下のようになっていました。組織委員長:戸上光雄・紘城一家総長(小田原市)、渉外委員長:國近哲也・三本杉一家総長(東京都渋谷区)、運営委員長:坂井繁生・森田一家総長(静岡市)、慶弔委員長:池田龍治・小金井一家総長(横浜市)、諮問委員長:鈴木政行・杉浦一家総長(横浜市)(*7)。

 

 今回の新人事では、新・組織委員長に國近哲也(前渉外委員長)、新・渉外委員長に坂井繁生(前運営委員長)、新・運営委員長に鈴木政行(前諮問委員長)が就きました(*8)。つまり3役に関しては「横滑り」人事で対応しました。慶弔委員長は池田龍治の留任がしました。そして新・統括委員長に貞方留義・埋地一家総長(横浜市)が就きました(*9)。これまで存在した「諮問委員長」の役職は消え、新たに「統括委員長」の役職が設けられたと推測されます。

 

 「執行部の下層」に位置する役職が、執行部メンバーです。氏名の前に「執行部」という肩書がつきます。「執行部メンバー」の中で、最も高く位置づけられるのが「執行部筆頭」です。統括委員長に就任した貞方留義の以前の役職は、執行部筆頭でした(*10)。今回の新人事では、貞方留義は昇進したのです。ちなみに執行部の「序列」は山口組でも見られます。「執行部の上層」は若頭、統括委員長、本部長の3役職が位置します。「執行部の下層」は複数の若頭補佐が位置します。また執行部ではないが、執行部に準じる層として、幹部という役職が位置しています。

 

<引用・参考文献>

*1 『週刊実話』2016年7月7日号、40P

*2警察庁平成27年暴力団情勢」図表1-2 主要団体の暴力団構成員等の比較

*3 『実話時代』2015年8月号、16P

*4警察庁平成27年暴力団情勢」図表1-2 主要団体の暴力団構成員等の比較

*5 『実話時代』2014年8月号、26~27P

*6 同上

*7 同上、31~33P

*8 『週刊実話』2016年7月7日号、40P

*9 同上

*10『実話時代』2014年8月号、34P