神戸山口組系の元組員射殺事件

 15日16時40分頃、名古屋市中区のマンション一室で神戸山口組系組員(64)が射殺される事件が起きました。現場から車で逃げる男2名が目撃されており、愛知県警は行方を追っています。2人組の男は被害者がいたマンション宅の玄関ドアから入り、被害者を射殺したと見られています。当時室内には、被害者の知人男性もいました。この知人男性が通報しました。また現場から2キロ離れたところで、逃走用に使用されたと思われる車が燃やされていました。(*1)

 被害者は神戸山口組系組員と報道されていたり、元組員と報道されています。しかし数年前に組織から処分されたという話があり、実態は「元組員」だと考えられます(*2)。被害者が属していたのは、神戸山口組系で名古屋市に拠点を持つ組織です(*3)。思い浮かぶのが山健組2次団体の健仁会です。山口組分裂抗争後、名古屋を牙城とする弘道会と小競り合いを起こしています。昨年10月17日、弘道会傘下団体の髙山組組員達が、名古屋市千種区にある健仁会の事務所のインターホンを破壊、また数時間後には小競り合いが起きました(*4)。ヤクザ関連情報の速報性及び正確性に優れている「慣れ果て」( ‏@narehateta)と「本部長」(‏@yokohamabj)のツイッター上でも、被害者が属していた組織が健仁会であるとツイートされています。被害者は健仁会の元組員であると推測されます。

 今回の殺害は、拳銃を用いた殺害方法、逃走車を燃やすことによる証拠隠滅の仕方から、ヤクザ関係者による犯行と見られます。しかし神戸山口組と対立する山口組による攻撃とは考えにくいです。5月に山口組側は神戸山口組2次団体・池田組の若頭を射殺しました。しかし組織犯罪処罰法により、傘下組員が抗争において対立組織メンバーを殺害した場合、組織トップを無期懲役で処罰できる司法環境が整えられています。山口組側は短期間に対立組織メンバーを殺害しにくい状況下にあります。また山口組側にとって、元組員を狙うメリットは基本的にありません。射殺現場がマンションの一室で、犯人と思われる2人組の侵入経路が玄関の可能性があることから、「顔見知り」の犯行という可能性も否定できません。

 健仁会は比較的新しい組織で、前身組織は多三郎一家です。多三郎一家も山健組2次団体でした。2007年頃多三郎一家の構成員は約160名(*5)、多三郎一家トップの後藤一雄は上部団体・山健組においては舎弟の位置にいました(*6)。当時、後藤一雄は活動範囲をともにする弘道会出身の山口組若頭の髙山清司を批判する言動をしていました(*7)。やがて髙山清司の耳にも伝わり、後藤一男は山健組から破門処分を受けることになります(*8)。2007年5月31日、山健組に処分の不服を伝える為、後藤一雄は名古屋から神戸に出てきます。神戸市中央区の路上を同行者2名と歩いている際、後藤一雄は同行者の多三郎一家幹部A氏により何度も胸部と腹部を刺され、もう一人の同行者の多三郎一家幹部B氏が救急車を呼ぶものの、死に至ります(*9)。

 自身の親分を刺殺したA氏は同年7月31日、名古屋市の駐車場内の車の中で死亡しているところを発見されます。左胸から血が流れていて、車内には拳銃がありました(*10)。また同年10月14日、東京台東区の路上でB氏が2~3人の男に襲撃され、2、3発の銃撃を受け死亡します(*11)。2007年5月31日の後藤一雄刺殺事件にいた人間全てが死に至ったのです。つまり「A氏による後藤一雄刺殺という話」も現時点では、確認できなくなっています。その後、一連の殺害を山健組2次団体・健國会が実行したことが警察の捜査で明らかになります。健國会若頭の川田賢一、健國会会長の山本國春がともに2010年逮捕されます。川田賢一は刑が確定し現在服役中、山本國春は2015年に刑が確定しています(*12)。2010年逮捕時、山本國春は山健組若頭を務めていました(*13)。多三郎一家トップだった後藤一雄の刺殺事件及び関連事件は、山健組上層部が大きく関わっていたいことが透けてみえます。

 多三郎一家トップ刺殺事件は、山健組が1次団体・山口組の若頭である髙山清司に配慮する形で、起こしたものです。弘道会を主流とする山口組と敵対する現在の山健組にとっては、良い出来事とは言えません。山健組出身の渡辺芳則が五代目組長を務めていた時代(1989~2005年)、我が世の春を謳歌した山健組ですが、六代目体制以降(2005年~現在)山口組内の立場は下がってしまいます。その象徴的な事件が多三郎一家トップ刺殺事件ともいえます。

 今回の殺人事件と、多三郎一家トップ刺殺事件のつながりは現時点では不明確です。個人的な怨恨の線もあります。今後の捜査、山口組そして神戸山口組の動きが注目されます。

<引用・参考文献>

*1 朝日新聞DIGITAL 2016年7月16日00時04分

*2  R-ZONE「菱のカーテンの向こう側76 名古屋市で白昼、暴力団関係者が2人組の男に射殺されるという事件が発生」

*3 同上

*4 『山口組 分裂の真相 知られざる「利権抗争」の聖域』(一ノ宮美成+グループ・K21、2016年、宝島社), p164

*5 『弘道会の野望 司六代目と髙山若頭の半生』(木村勝美、2015年、メディアックス), p242

*6 『山口組動乱!! 日本最大の暴力団ドキュメント 2008~2015』(溝口敦、2015年、講談社+α文庫), p115

*7 『弘道会の野望 司六代目と髙山若頭の半生』, p243

*8 『山口組動乱!! 日本最大の暴力団ドキュメント 2008~2015』, p115

*9 『弘道会の野望 司六代目と髙山若頭の半生』, p243~244

*10 同上, p244

*11 同上, p244~245

*12 『山口組動乱!! 日本最大の暴力団ドキュメント 2008~2015』, p116~117

*13 『弘道会の野望 司六代目と髙山若頭の半生』, p246