舞台公演にレベニュー・マネジメントを

 集客力の高低を問わず、舞台公演ビジネスの悩ましさの1つに「売上の上限」があります。舞台公演の売上は主にチケット収入から成ります。「会場の席数」×「公演数」=全体のチケット数という式になります。つまり会場500席、5公演、チケット料金が一律で3000円という舞台公演の場合、売上の上限は750万円となります。その舞台公演を見たい人が多くても、受け入れる器が一定の為、需要層全てを売上に反映させられません。売上増の機会を逸しています。

*今回記事を作成するにあたり、『異業種に学ぶビジネスモデル』(山田英夫日経ビジネス人文庫)の情報を参照させて頂きました。

 しかし実際の舞台公演ビジネスは有限性を巧みに利用しています。有名俳優が集う集客力の高い舞台公演の場合、実際のチケット数より応募数の数が多いです。抽選等でチケットを割り振る形になり、残念ながらチケットを手にできない応募者が出てきます。購入できなかった応募者の存在は「チケットの希少性」を実証する役割を果たします。運良くチケットを購入できた層は「チケットの希少性」を認め、チケットに対して払った高額金に正当性を与えます。希少価値は有限性から生まれます。公演側は「チケットの希少性」を訴求する形で高額料金を設定しているのです。席数と公演数は固定的ですが、チケット料金は変動的です。舞台公演ビジネスは「売上の上限」を超えられませんが、チケット料金を上げる方法で「売上の上限枠」自体を上げることができます。

 舞台公演に限らず、受け入れる器が一定のビジネスは存在します。ホテル、航空等です。各業界はレベニュー・マネジメントという方法を取り入れています。レベニューは「総収入」という英語訳の意味です。総収入を最大限に拡大させる手法がレベニュー・マネジメントです。ホテルの予約サイトを覗くと、同じ客室にも関わらず、日によって料金が異なっています。観光客が利用するシティホテルの場合、金土の曜日、夏休みや年末年始の時期、客室料金は高くなります。それ以外の日の客室料金は安くなっています。一方、ビジネスマンが使うビジネスホテルは、その逆の料金設定になっています。需要の多い日は高料金にして、売上増を図ります。一方需要の低い日は低料金にすることで、需要を喚起する狙いがあります。需要に応じて価格を変動させることで、全日同一料金での営業よりも、多くの収入を見込めます。各ホテルにはレベニュー・マネジメント係がおり、長年の経験を基に料金を設定してきました。また近年はレベニュー・マネジメントの役割を担うデジタルサービスも増えています。

 舞台公演ビジネスでもレベニュー・マネジメントの要素を既に取り入れています。「席の位置」によって料金を変えています。舞台に近い席は需要が高く、舞台から遠い席は需要が低いです。よって舞台に近い席ほど高料金で、舞台に遠い席ほど低料金に設定されています。しかしホテル業界のレベニュー・マネジメントのように、日によって大幅に料金を変動させる仕組みを舞台公演ビジネスでは見掛けません(数百円単位の料金変動は見掛けますが)。実験的ではありますが、面白い取り組みになるかもしれません。実際平日の昼公演と、休日の夜公演では、客の入り数が異なります。

 仮に、中小規模ながら人気が高い劇団があったとします。ある週の木曜日から日曜日の4日間昼・夜の部、計8公演を会場200席のA劇場で行うパターンが定着しています。チケット料金は一律3000円で毎回販売していました。土・日曜日の4公演のチケットは毎回すぐに売り切れます。売り切れた後も予約の電話が多数掛かってきますが、当然その人達はチケットを入手できません。一方、木・金曜日の4公演は、客は各部150人程度です。土・日曜日のチケットを希望するものの入手できなかった人に、劇団はいつも木・金曜日の公演を薦めるものの、「仕事がある」という理由で断られていました。劇団としては「土・日曜日公演から漏れた潜在的客層」を「木・金曜日公演の新しい客層」に置き換えたいです。

 平日に仕事を持つ人にとって、「木・金曜日公演チケット」と「土・日曜日公演チケット」の価値は大いに異なります。当然「土・日曜日公演チケット」の方が価値は高いです。劇団は同じ価格で売るので、両者の価値の差に変化はありません。しかし大幅な価格差を設けることで、両者の価値は等しくなります。「木・金曜日公演チケット」を2000円、「土・日曜日公演チケット」を4000円という料金設定に変更するのです。2000円の価格差に魅かれて、有給休暇を取ってまで木・金曜日公演に見に行く人が出てくるかもしれません。「土・日曜日公演チケット」で見る人にとって1000円の値上げになりますが、チケットを取るのが難しい公演の為、受け入れる余地があります。ちなみに一律3000円で全公演全席売れた場合、480万円(200席×8公演×3000円)の売上になります。一方、2000円と4000円と価格差を設けた上で全公演全席売れた場合(200席×4公演×2000円+200席×4公演×4000円)、同じく480万円になります。大幅な価格差を設けることで、逃していた客層を取り込むことができます。