ヤクザ社会における義理掛け

 ヤクザ社会の義理掛けと呼ばれる行事として、主に「襲名祝」「盃事」「放免祝」「葬式」があります。一般社会における慶弔の行事に値するのが、ヤクザ社会の義理掛けです。襲名祝は組織の長の襲名に関する行事で、つまり組織のトップ交代を告げる祝い事です。盃事はヤクザ社会における儀礼的な「家族関係」を結ぶ行事です。主な盃事として、新たに二次団体の長になった者と1次団体の長との間で結ばれる親子盃があります。「盃直し」とも呼ばれています。「親役」は1次団体の長で、「子役」は2次団体の長となります。親子盃以外の盃事として、2つの1次団体の重要幹部同士による兄弟盃があります。山口組と稲川会は、1972年に重要幹部同士2組の義兄弟盃を交わしたことにより、「親戚関係」つまり同盟関係に至りました。襲名式の場でも、襲名盃(代目継承盃)という盃事が行われます。放免祝は、組織の為に服役していた者が刑期を務め上げた際、開かれる祝い事です。ヤクザ組織の強さの源泉の1つに、懲役刑が組織内の「上昇経路」として組織内で裏付けされていることがあります。つまり慣例的に、懲役刑を経た組員は重要役職を与えられて組織内で優遇されます。懲役経験者を優遇する仕組みにより、ヤクザ組織は犯罪行為を恐れなくなるのです。放免祝は、ヤクザ組織の活力を保つ為に、重要な祝い事として位置づけられています。ヤクザ組織の長や重要幹部の葬式に出席することも、ヤクザ社会では重要なことです。

*今回記事を作成するにあたり、『現代ヤクザ大事典』(実話時代編集部編、2007年、洋泉社)、『実話時代』2014年10月号、『血別 山口組 百年の孤独』(太田守正、2015年、サイゾー)の情報を参考にさせて頂きました。

 

 葬式は他の義理掛けと異なる性格を持っています。長や重要幹部の死は、後継トップや今後の組織形態を巡り、内部分裂の要因となります。該当ヤクザ組織にとっては、葬式は暗い場です。一方、葬式を訪れる側、つまり他団体の長や重要幹部にとって葬式は、「存在を示す」場となります。葬式の香典、葬式に至るまでの交通費などの費用により、葬式に出席するのには負担が掛かります。しかしあえて他団体の葬式に出席を重ねることで、「義理堅い人物」という評価を他団体から得ることができます。襲名祝、盃事、放免祝の3つは対内的意味合いの強い義理掛けである一方、葬式は対外的意味合いの強い義理掛けと言えます。公の活動が制限されるヤクザ組織において、他団体との公な接触機会は限られています。よって一層、葬式が「人物評価」の場として強く機能してきます。

 

 一般社会においてもあてはまることで、冠婚葬祭の出席は、社会人としての評価を高めることになっています。しかしヤクザ社会において、義理掛けの行事は縮小傾向にあります。背景には、警察当局のヤクザ組織に対する取り締まり強化があります。葬式においては、ヤクザ組織が主体的に行う組葬の実施が難しくなっています。セレモニーホールや寺院を、組葬として借りることができないからです。結果的に、家族の葬儀として営む形になり、ヤクザ組織の参加者は限られることになります。ヤクザ社会において、葬式の場が果たしてきた役割が薄まりつつあります。また放免祝いは、暴対法第4次改正で禁止されて、公にすることはできなくなりました。

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