株式市場における増資とは

 売上拡大を図る企業は、設備投資や社員増員の施策を打ち出します。当然、多額の資金が必要になります。内部留保の金が潤沢であれば、その切り崩しで賄えます。しかし潤沢でない企業は、外部に資金を求めます。典型的なのが銀行からの借金です。ただし上場企業に限っては、「借金形態ではない資金調達方法」が存在します。新株の発行です。「増資」と呼ばれる行為です。株は「企業の経営に携わる権利」であり、「債権」ではありません。すなわち株の持主は「企業の資本関係者」ですが、「企業の債権者」ではないのです。証券取引所に株式公開できる企業つまり上場企業になる最たる理由として、資金調達が容易になることが挙げられます。ちなみに上場の他のメリットとして、知名度向上による優秀な人材確保や、取引先に対する安心感の提供があります。

*今回記事を作成するにあたり、『株のからくり』(奥村宏、2007年、平凡社新書)の情報を参考にさせて頂きました。

 増資とは、「企業の資本を増やす」という意味です。増資には株主割当増資、公募増資、第三者割当増資の3つの方法があります。株主割当増資は、既存株主を対象にします。所有株数に比例して新株引受権を与えて募集します。既存株主の中でも、株を多く所有する株主が優先的に、新株を取得できる仕組みです。日本では1960年代まで主流でした。公募増資は、不特定多数の人を対象にします。「新規株主の募集」の意味合いが強いです。1970年代から増資方法として、公募増資が主になります。第三者割当増資は、特定の第三者に新株を付与する方法です。第三者として、企業の役員や社員、取引先の銀行や企業が該当します。実際は、取引先の銀行や企業に付与する場合が大半です。

 増資の懸念として、発行株の希薄化による株価下落があります。例えば、ある企業の既存発行株数が1億株、配当に充てる金が10億円とします。1株あたり10円の配当金となります。しかし企業が急遽1億株を新規発行しました。10億円を2億株で分けることになり、配当金は1株あたり5円に減りました。既存株主にとって、増資はネガティブなニュースです。結果、売りが多発して、株価は下落します。しかし増資の目的は、売上増の下地作りです。増資企業の将来性を評価されれば、下落した後次第に株価が上昇していく場合もあります。株式市場が上昇基調であれば、増資における「負の要素」も弱くなり、上昇していきやすいです。公募増資を巡る犯罪として、インサイダー取引があります。例えば、「A社増資のニュース」→「A 社の株価下落」という流れが確実に成立する状況下、事前にA社株を空売りすれば、儲けを得ることができます。ただし増資の件を内部関係者から事前に聞いて、空売りして儲けを得ることは、犯罪行為です。しかし公募増資によるインサイダー取引は度々発覚しています。

 株主割当増資と第三者割当増資の場合、増資企業が直接新株を発行します。既存株主と企業に近い第三者が対象の為、割当作業は簡単に済むからです。一方公募増資の場合、一度証券会社が発行新株を引受けます。公募増資は間接発行となります。不特定多数相手に募集する場合、受付等の手間が発生します。また人気企業を除けば、全ての企業の新株が好んで買われる訳ではありません。増資企業は多くの投資家の中から「発行新株の買い手先」を探さなければなりません。増資企業にとって本業とは異なる性格の業務になります。業務代替をしてくれるのが証券会社です。証券会社は営業力を発揮して、増資企業の新株を投資家に売込んでいきます。増資企業は証券会社の営業力に期待して、手数料を支払い、引受け業務を任せているのです。引受けた証券会社は幹事証券と呼ばれ、幹事証券になるべく、各証券会社は熾烈な争いを繰り広げます。

 増資とは逆の方向に働くのが、自社株買いです。市場に出回る自社株を買い戻して償却すれば、発行株数が減り、既存株主に回る配当金が増えます。例えば、ある企業の既存発行株数が1億株、配当に充てる金が10億円とします。1株あたり10円の配当金となります。しかし企業が急遽自社株5000万株を買い戻して償却しました。発行株数は5000万株です。10億円を5000万株で分けることになり、配当金は1株あたり20円に増えました。自社株を買い戻して償却しないで、保有している形態も同様です。企業は「保有する自社株」(金庫株)への配当は禁じられています。「保有する自社株」が増えれば、既存株主に回る配当金が増えます。既存株主にとって、自社株買いはポジティブなニュースです。結果、買いが続き、株価は上昇します。