日本の覚せい剤取引の経路

 ヤクザ組織の主要な資金獲得業として、覚せい剤の密売があります。覚せい剤の利用者は、1回0.02~0.03グラムを使用します(*1)。極少量で、覚せい剤の効能を得ることができます。作用時間は2~4時間です(*1)。利用者の購入時、覚せい剤は0.25gや0.3gに小分けにされた上で、小さいビニール袋の中に入れられています(*2) (*3)。覚せい剤が入った小さいビニール袋は「パケ」と呼ばれています(*2)。1パケから利用者は購入することができます。単純計算すると、1パケで約10回分、覚せい剤の効能を得ることができます。末端小売価格は「1パケ=1万円」という分かりやすい価格設定の場合や(*2) (*4)、「1パケ=1万5,000円程度」(*5)という場合もあります。「1パケ=1万円」(1パケ=0.25g)の場合、覚せい剤1gの末端小売価格は4万円、覚せい剤1kg(1,000g)の末端小売価格は4,000万円となります。金地金1kgの販売価格が450~500万円(2017年3月時点)であることと比較すると、覚せい剤は「金地金の10倍」の価値があることが分かります(*6)。覚せい剤を「金地金の10倍」の価値に至らしめている要因として、違法薬物であること、加えてヤクザ組織の市場管理による「流通量の少なさ」があります。

 

 日本国内における卸段階での覚せい剤の取引は、ヤクザ組織間のネットワークの下で行われています(*7)。また同一団体内で取引するのではなく、他団体を絡めて取引をしているところに、ヤクザ組織の覚せい剤流通の特徴があります(*7)。1次団体・A組の下部組織が外国から覚せい剤200キロを密輸(水揚げ)すると、1次団体・B組や1次団体・C会の下部組織にキロ単位で販売していくのです(*7) (*5)。キロ単位で購入した1次団体・B組の下部組織は、中間卸となって、さらに1次団体・D会の下部組織に販売する場合もあります(*7)。他団体を絡める理由の1つとして、全国展開するヤクザ組織が日本にないことがあります。日本最大のヤクザ組織である山口組広島県沖縄県山形県には拠点を持っていません(*8)。1951年覚醒剤取締法の制定以降、違法薬物となった覚せい剤を巡る密輸(水揚げ)、国内輸送、販売のネットワークが「全国的な規模」で形成されていきます(*9)。当時、広域的な1次団体は存在せず、各地に独立団体が活動する状況でした。覚せい剤取引に携わる当時のヤクザ組織は、自ずと他団体と絡むことになりました。他団体と絡む取引が長年積み重なり、覚せい剤取引の慣行となったと考えられます。

 

 またヤクザ組織の覚せい剤流通は分業体制となっています。流通の分業体制により、結果、摘発リスクの分散化がなされています。同一組織が覚せい剤の密輸(水揚げ)から小売まで一貫して行っていると、外部から目立ち、摘発リスクが高くなります。しかし多くの組織が絡むことで、摘発リスクは分散化されていきます。日本のヤクザ組織は、組織を問わなければ、全国各地で活動しています。全国各地に散在するヤクザ組織によって可能となる広域ネットワークの存在は、日本においてヤクザ組織の優位性を保たせています。日本で活動する不良外国人グループは局所的に活動しており、また外国人グループ同士の連携も強くない為、ヤクザ組織並みの広域ネットワークを持てていません。イラン人の薬物密売グループの場合、覚せい剤仕入先はヤクザ組織です(*10)。イラン人の薬物密売グループは「末端小売」の役割を果たしているに過ぎません(*10)。アメリカの麻薬市場におけるメキシコカルテルは麻薬の卸元であり、アメリカの裏社会では大きな存在です。対してイラン人の薬物密売グループは、ヤクザ組織間ネットワークの下で行われている覚せい剤流通の一端を担うプレーヤーという位置づけです。

 

 卸の段階では、現在覚せい剤の価格は1キロ900万円前後(*5)や1キロ500万円(*11)で取引されています。先述した末端小売価格は1キロ4,000万円でした。仮に900万円で仕入れた組織がそのまま末端小売も行った場合、約3,100万円の利益となります。卸間の経路としては、一昔前は九州で水揚げされた後、大阪そして首都圏に流通する経路がありました(*11)。しかし現在は、複雑な経路も存在しています。「九州」→「神奈川県」→「福島県」の経路があり、その後「福島県」→「宮城県」→「北日本各地」、「福島県」→「北関東」→「首都圏」の2つの経路に分かれます(*11)。経路が複雑になっていることが窺えます。

 

<引用・参考文献>

*1 『日刊ゲンダイ』2016年2月23日号(22日発行)「サラリーマンも溺れる覚醒剤①」, p15

*2 『日刊ゲンダイ』2014年10月21日号(20日発行)「溝口敦の斬り込み時評<187>」

*3 『日刊ゲンダイ』2016年2月16日号(15日発行)「溝口敦の斬り込み時評<245>」

*4 『週刊SPA!』2016年3/1号, p24-25

*5 『裏社会 噂の真相』(中野ジロー、2012年、彩図社), p204-206

*6 第一商品株式会社サイト

*7 『薬物とセックス』(溝口敦、2016年、新潮新書), p130-136

*8 『実話時代』2016年9月号

*9 『薬物とセックス』(溝口敦、2016年、新潮新書), p86-87

*10 『週刊実話』2016年1月21日号, p46-47

*11 『週刊実話』2016年3月3日号, p34-35